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30話

 「と、友達、ですか?」

 

 色々と予想外すぎて、思わず聞き返してしまう。向こうははにかみながらうなずくと、


 「実は、僕はあまり同年代の友達がいなくて。婚約している身ではありますが、僕は、あなたと友達になりたいと思ったのです」


 友達……友達!?突拍子もない言葉に動転する私とは反対に、殿下は至って真剣なようで、ぎゅっと目をつむって緊張したように私の返答を待っている。まるで小動物のようだ。正直言って、とてもかわいい。ショタ美少年フェイスとも相まって、とてつもない破壊力。母性があらがうことを許さない。ありがとうございます、正直言って、尊いです。


 いざって時には人間理性より本能で、私は婚約破棄の四文字などすっかり忘れて言っていた。


 「ええ、もちろん!もちろんですとも!私自身、お友達なんてほとんどいなくて、ですから、是非、ええと、私で良ければ!」

 「!本当ですか……!?」


 ぱあぁっ、と光が差し込むように笑顔になる王太子(美少年)。まぶしい!まぶしすぎます!あぁ~浄化されるんじゃあ……っ


 「本当ですとも!」

 「ありがとう!えへへ、言って良かった。よろしくお願いします、フィリア嬢」

 「はい!ああ、もう、継承などつけないでくださいませ!フィリア、でかまいませんわ」

 「えっ?えっと……じゃあ、ふぃ、フィリア……?」

 「ええ、殿下!フィリアですわ!」

 「っ……じゃ、じゃあ僕のことも殿下じゃなくてアレスって呼んでくれる?」

 「へっ!?い、いえそれは流石に不敬で……」


 と断ろうとする。が、


 「……呼んでくれない?」


 所詮ただの美少年美少女大好きオタク。顔面偏差値114514で旬とされては抗えない。


 「呼びます!!アレス様!」

 「……!うん!えっと、じゃあ、一緒にお話したりしたいんだけど……」

 「もちろんです!たくさんお話しましょう!」


 そんなやりとりがあってからというもの、私たちはそれはたくさんお話をした。好きな食べ物、嫌いなもの、習い事のこと、趣味、それはもう、たくさん。


 途中何度か王宮の侍女であろう使用人のおばさんがお茶やお菓子を持ってきてくれたが、王太子を呼び捨てにする私を見ても特に突っ込まれることはなかった。もしかしたら、アレス様から事前になにか言われていたのかもしれない。


 ……とにかく、友達になってほしい、というささやかな願いに応えるために全力になっていた私はすっかり忘れていたのである。


 私が一体、“誰”と一緒に王宮に来ていたのかということを。



♢ ♢ ♢



 「ああそうですかー、友達が出来て良かったねー、

一人さみしくあの部屋でずっと

まってた兄様のことは忘れたわけですか、へー」


 夕日が世界を染め上げる頃、帰路につく馬車の中でキノコをはやしそうな青年が一人。


 ……ごめんなさい、兄様。正直完全に忘れていました。


 「ごめんなさい……」

 「いいですよー、どうせ年の離れたお兄ちゃんより同い年の子といる方が楽しいに決まってるもんね。フィリアもついにお兄ちゃん離れか……」

 「そ、そんなことはありませんわ!断じて!」


 レオン兄様を嫌いになる?……ないない!


 必死で首を振る。すると、それまでじめじめとキノコの温床になっていた兄様がふと優しい顔になって、私の頭に手を置いた。


 「……良かったね、フィリア。友達が出来て」


 そのまま撫でられる。ふとした瞬間に見える兄力。マジそう言うとこやぞ兄様よ……


 尊みの暴力に耐えながら会話する私と兄様を乗せて、馬車は静かに自宅へ到着したのだった。




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