28話
お久しぶりです。ちまちま更新再開していきます。どうかお付き合いください……!
あ、やば。
振り上げられた手を見て思ったのは、そんなこと。
「クラネリア様!」
新人さんの悲鳴が聞こえる中、もはや避けられないと覚悟を決めて目を瞑る。
…………ん?
が、襲ってくるはずの痛みはいつまでも襲ってこないし、叩かれた時の乾いた音もいつまでも鳴らない。
代わりに聞こえてきたのは、宝石を転がしたような凛とした声。
そろりと目を開くと、飛び込んできたのは怒り狂う大臣……ではなく、金色の髪をもつ、小さな背中だった。
「何をしているのですか」
穏やかな声色だが、明らかな圧が入っている。大臣に対してそんなことができる人間で、少年で……考えなくてもすぐにわかる。
「あ、アレスフィア王太子殿下……」
先ほどまでとは真逆で、大臣の顔は真っ青になっていた。
「知らないはずもないでしょう。彼女は僕の大切な婚約者。フィリア=リル=クラネリア嬢です。サバラン殿。あなたは今し方、彼女に一体何をしようとしたのです?私が見たところ、フィリア嬢に手をあげようとしていたようですが」
「い、いえ……私は、その……」
「あぁ、言い訳は結構です。何をしようとしていたのか。僕が聞いているのはそれだけです」
爽やかな庭の空気は、一瞬で凍りつく。端的に言って、怖い。この王子様、怖すぎです。
いや、確かにゲーム本編、というか公式でも、怒ったらヤバいやつ一位認定されてたけど、こんなにか。こんなに怖いのか。
見えているのが背中で良かった。声だけでもこんなに怖いのに、顔なんて見てしまったが最期、一生のトラウマになりそうだ。
声も出せずに固まっていると、「ナイゼル」と殿下が言う。ナイゼル?誰さん?と思っていると、「は、はひっ……!」と、半ば悲鳴のような返事が聞こえた。ナイゼル……って、あの新人さんのことか!
「フィリア嬢を僕の客間までお連れしてくれ」
「はっ!……って、え?で、殿下の客間に……?」
「そうだ。……すみません、フィリア嬢。彼について行ってくださいませんか?」
くるりと半分殿下が振り返る。申し訳なさそうな美少年フェイスに気圧されながら、「は、はい」と返事をした。
「それでは、後ほど」
にこりと笑うと殿下は新人さん……ナイゼルさん?に目で合図する。
「そ、それでは。フィリア嬢、どうぞこちらへ」
ナイゼルさんに言われるがままに庭を後にする。……が、あれ!?そもそもの元凶のあの男の子……!と、気づいた時には既に遅く。
件の庭は、私の預かり知らぬはるか後方へ遠のいていた。




