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27話


 案内されながら、私は走っていた。右へ左へ、階段を下がって上がって。この城は、まるで迷路のようだ。



 前世はインドアだったので体力に自信はなかったが、今世では今のように階段を駆け上がっていても、不思議と息が切れるようなことはなかった。いつ何時でもヒロインの前に現れることができるように体力補正がかかっているのだろうか。


 そんなことを考えつつ、案内する新人さんとだんだん大きくなる声を頼りに私は走る。自分が完璧な侯爵令嬢であることなんてことは忘れていた。




 「あ、あとはそこの角を、右に…!」


 「右ね!」




 ぎゅんっ、と足を右にむけやがて辿り着いたのはとても美しい場所だった。



 心地よい風。涼しげな木陰を作る木に、さらさらと流れる小さなせせらぎ。荘厳でも華やかでもないが、心が落ち着くとても綺麗な場所。


 思わず目を奪われた私は、急いでいることも忘れて立ち止まって見惚れてしまった。




 「はぁ、はぁ……く、クラネリア様、足、速……」




 途中で追い抜かして声だけで指示をもらっていた新人執事が息を切らしながらようやくたどり着く。



 しかし、今度ははっきりと聞こえてきた声に、労ることもできずに私は口に指を当て、静かに、とジェスチャーをした。



 今度は新人さんにも声が聞こえたらしい。彼は、はっとした顔になって口を抑えた。目を合わせ、頷きながら声のする方へ静かに近づく。




 「何回言ったらわかるんだ!」




 聞こえてきたのは、怒鳴り声だった。


 苛立ちを隠そうともしない大声に、びくっと新人さんが震える。新人さんだからこそ、怒鳴り声には一等弱いのかもしれない。



 しかし、何やらただ事ではない雰囲気だ。私はそっと気の影から声の方を覗く。




 そこにいたのは、2人の人間だった。




 1人は中年の男性。なんだか妙に豪華な服を着た、非常にでっぷりとした……いや、たいへんふくよかな……いや、とても大きい……とにかく、中年男性だった。



 もう1人は私と同じくらいの男の子だった。座り込んでいるため、顔はよく見えないが、濃い深緑色の髪が見えた。



 そして、私は確信する。声の主は、あの男の子だと。




 「大臣様……?なぜ、このような所に……」




 新人さんが驚いたような声を出す。どうやら中年男性を知っているらしい。



 見たところ、中年男性の方が一方的にどなりちらしているようだ。対する男の子は、俯いたまま震えている。同時に、声はますますはっきりと聞こえてきた。






 『助けて……』






 何度目かの声にならない言葉。震えるそれを聞いて、私は覚悟を決めた。






 「ああら!なんて美しい所なのかしら!」







 庭全体に響くような大声。「クラネリア様!?」と新人さんが小声で焦るが、気にしない。




 「まぁまあ、静かで感じのいいところ!それにしても、ここは一体どこなのかしら!再び迷ってしまいましたわ!あぁ、どなたかいらっしゃいませんかしら!」




 突然響いた声にぎょっとしたのか、中年男性は怒鳴ることをやめた。その隙に、私は隠れていた木からひょっこりと飛び出す。




 「あ!天の助け、人がおりましたわ!」




 わざとらしいほど大仰に言って、私はぽかんとこちらを見る2人の方へ近づいていった。





 「あぁ、そちらの方。どうかお教えくださいませ、ここは一体どこなのかしら?」






 目に涙を浮かべんばかりに中年男性の方へと歩み寄る。が、相手は




 「あぁ……?なんだ貴様」




 と、仮にも公爵令嬢を睨みつけてきた。おお、勇気あるぞこの中年。




 「あの、私迷子になってしまいまして……」


 「そうではない。恐れ多くもこの私の前に入ってきて、私が誰だか知らんのか!」




 ふんぞり帰る中年。しかし、肉が多すぎて上すらむけていないぞ中年。そして、見たことがあるか、だと……?



 じーっと見つめる。正直見た目はさっぱりだが、この威張り腐った態度。言われてみればどこかで……




 「あ!」




 そこで声を上げる。見たことがあるはずだ。だってこの人は、先ほどまで兄様と話していた……




 「イワシ大臣!!」




 そう、青魚の人だ!



 「イワ……ぶっ、無礼者!私の名前はサバラン=カルボナーラである!」




 「惜しい!」




 あっ。思わず口から言葉が出てしまった。まずい、と思った時には時既に遅し。





 「小娘が……!俺を侮辱する気か!!」





 真っ赤な顔で手を振り上げる大臣さんがそこにいた。

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