24話
「ほむ?」
聞こえてきた言葉に、思わず間抜けな声を出す。ナンデスト?この男、今なんて言った?
「そういうのだ。その、いかにもアホっぽい、普通の令嬢はしないような返事はやめろ」
びしっと指を差される。人を指差すんじゃありません!ということを注意するのは今はやめておこう。
「アホっぽいとは失礼な。……ですが、興味深くはあますわ。確かなんですの?」
「あぁ。お前が見本のようなご令嬢になればあいつはお前に興味を失うはずだ」
「何故です?完璧なご令嬢ほど好かれるものでは?」
「なんだ、納得していないのか?要するにだな、アレスは完璧には興味を持たないんだよ」
「完璧に興味がない……ですか」
言葉が飲み込めずに復唱する。すると、彼は彼で呆れたように肩を竦めた。
「あぁ。アレスは常に周囲から完璧な人間になることを望まれていて、そして自らもそうあろうとしている。でも、その境遇に決して納得はしていない。だから、俺みたいなやつとも付き合うし、お前みたいな変なのに興味を持つんだ」
そういう意味ではあいつも変なやつだな、と言うラルフ様を他所に考える。
完璧を求められて壊れた王子。完璧だから変なものが好きな王子。完璧であろうとするから完璧なものが嫌い。矛盾しているようだが、きっと殿下には殿下なりの考えがあるのだろう。
「なるほど……。では、私のこれまでの作戦は、かえって殿下のご興味をひいてしまっていたのね……」
「ま、そうだろうな。……実際変な公爵令嬢だよお前は。アポもなしにいきなりうちにきて、自分よりも身分が低い俺がどんなに雑に喋っても怒ろうともしない」
あ、それは単に『生意気俺様系ショタわんこキターーーーー!!!』と思っているだけなので。……なんてことは言えるわけがないけど。
「おほほほほ、公爵令嬢たるもの、細かいことは気にしなくってよ!」
「あまりに不自然すぎて最早擬態する気がないのではないかと思うくらいの棒読み令嬢言葉だな」
……彼の反応を見る限り、どうやら道のりは長いようだ。
「というか、なぜお前はそこまでアレスとの婚約を嫌がるんだ?俺の聞いた話だと、お前は自ら婚約者に立候補したということだったが?」
ジト目で睨まれる。かなりパンチが効いた言葉だ。……まぁ、反論のしようがないんだけどね!!私から言ったのは事実だし!
「本当に。あの時の私はどうかしていたんです。急に体がふわーっとなって……王子様と結婚したい、しなければ、と思ったんです」
今思えば本当に、風邪をひいた時の夢みたいな戯言だ。
「お前、アレスと面識なかったんだろ?変なやつだな」
「自分でもそう思いますわ……」
……とにかく、必要な情報は得た。そろそろお暇せねば。
「えー、それではラルフ様。私はこれで失礼いたしますわ。今度はいきなり我が家に押しかけてきてくださって構わないので」
「自覚はあったのか……」
なんとも言えない顔をされたが、それはそれ、これはこれ。
嵐のようにやってきた私は、嵐のように自分の屋敷へと帰ったのである。
ラルフは突然のフィリア来訪に困惑しましたが、実は彼のご両親には約束を取り付けていました。伝達ミス。




