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23話


 「そういうわけで、ラルフ=トイフル=ローゼングレン様!私は貴方様の元へやってきた次第です!」


 「いや待て、俺は何故親友を呪い殺すことになりかねない相談を今受けているんだ……?」



 俺は頭を抱えるしかなかった。変だ変だとは思っていたが……



 「まぁまぁ、ラルフ様!そう困らないでくださいよ!大好きな殿下を私のような小娘から引き離す絶好の機会ですわよ?」


 「いつそんな話をしたんだ俺が……」


 「目は口程にものを言いますが、態度はそれ以上にものを言うのですよ、私には見通しです!」


 「なんだと!? 俺様がわかりやすいとでも言いたいのか!」


 「それはもう、下手な絵本よりもわかりやすいですわ!」



 目をキラキラと輝かせて堂々と尺に触ることを言う目の前のご令嬢は、やっぱり変なやつだった。そして、やっぱり嫌なやつだ!!



 「大体!お前は何なんだ!いきなり我が家に押しかけてきて……迷惑を考えないのか!?」


 「まぁ!貴方は自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に他人に気を使うんですか!?実は、聖女様でしたか!」


 「何故お前はそう人の揚げ足をとるんだ!そして、生きるか死ぬか、だぁ……?」



 今度はトンチンカンなことを言い始める。すると、何を思ったかこのご令嬢は、座っていた椅子から立ち上がり拳を握って胸にあて、妙にさとった声で語り始めた。



 「えぇ、えぇ!瀬戸際です。私が生きるか、死ぬか……全ては、貴方様にかかっているのですわ!」


 「顔が近い!えぇい、鬱陶しい……第一、何故こんなことになったぁぁぁあ!!!」



 後で聞いた話によると、この時の俺の絶叫は数百メートル離れた屋敷の庭の端まで響いていたらしい。それを聞いた仕事中の庭師は、「あぁ、また坊っちゃまが叫んでおられる」と言ったとか、言っていないとか。




◇ ◇ ◇




 話は、数十分前に遡る。



 「あの、坊っちゃま……ご友人がお越しになられたのですが、いかがいたしましょう?」



 それは、日課である剣の稽古を終えた後のことだった。



 「ご友人?今日は、誰とも約束はないが……」



 なんだか困惑した様子のメイドにそう言うと、「はぁ、それが……」と言い淀む。



 「何だ?もしや、またお忍びでアレスでも来たのか?それなら、いつものように俺の部屋に______」


 「それが、その。尋ねてきたのは、坊っちゃまと同じくらいの、ご令嬢で……」


 「ご令嬢?」



 ……なんだかとてつもなく嫌な予感がする。だが、聞かないわけにはいかない。



 「……一体、どちらのご令嬢だ」


 「……クラネリア公爵家のご令嬢でございます」



 今日は厄日だ、と思った。



 そうして向かった玄関に、そのご令嬢はいた。いたのだが。



 「ほほう!これが本物の甲冑……!中世ヨーロッパがモチーフなのかしら?いやー、エモいわー」



 彼女は、人の屋敷の玄関にある甲冑を舐め回すように見つめ、何かをぶつぶつと呟いていた。どう見ても不審者だ。



 「クラネリア嬢!」



 何をしているんだこの女……と思いながらも一応声をかける。すると、彼女は俺を見てぱあっと笑顔になった。



 「ラルフ=トイフル=ローゼングレン様!今日は!シークレットブーツの履き心地はいかがですか!?」



 「言うな!!!!」



 間違いない。今日は厄日だ。



◇ ◇ ◇



 そして話は冒頭に戻る。



 「はぁ……それで、俺に、アレスがお前に愛想を尽かすようないい策を授けろ、と?」


 「はい!殿下と1番近いのがラルフ様ですから!兄様は参考になりませんし、父様は歳が違いすぎですし!」


 「いい策、なぁ……」



 呆れながらも俺は考えるしかない。もちろん最初は断った。何が楽しくてこんなおかしな女に手をかさなくてはいけないのか。


 『断る!お前に手を貸すのも嫌だし、アレスを危険に晒すことも嫌だ!』


 それはもう、はっきりとそう言った。しかし、彼女はとても残念そうな顔をしたのだ。



 『……わかりましたわ。貴方がそこまで言うのでしたら、諦めます……』



 潮らしくなった彼女にほっとして、



 『そうか、それはよかった』


 『残念でなりませんが、貴方の秘密はリークされることになりますわね……』


 『そうだろうそうだろう。俺様の秘密……は?』


 『シークレットブーツを履いてらっしゃることとか……』


 『なっ』


 『毎日牛乳を飲んでらっしゃることとか』


  『ちょっ、』


 『可憐な天使を3人でいじめていることだとか!ぜーんぶ!!バラすことになってしまいますわ!!』


 『やめろぉおぉお!!!』



 つい本音が先になり、「あらそうですか、教えてくださる気になりましたか、言質は取りましたよ、安心してください!さぁ!さぁ!!」と、まんまと罠にかかってしまったのだった。



 「うっ、うっ、かわいそうな俺様……」


 「泣いてらっしゃる顔も可愛らしいですねぇ。近所にいたチワワを思い出しますわ」



 後から思えば明らかにバカにされているこの言葉にも気づかないほど弱っていた俺は、もう話すしか無くなってしまった。


 だから、仕方なくアレスに遠ざけられる方法を言う。






 「……そうだな。お前、令嬢の中の令嬢になれ」

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