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失格の魔物使い  作者: 原子牛
Chapter2 成長
8/25

8 瘴気の森

 目が覚めた時、まだ夜は続いていた。


 長い時間眠っていたわけじゃないみたいだ。


 召喚の間にソフィアたちの姿はなかった。


 いるのは、おれとルビィ……そして、変わり果てた母さん。


 涙が出そうになったが、おれは耐えた。


 もう二度と泣いてたまるか。


 あいつらを殺るまでは、絶対。


 母さんを埋葬したかったが、いつ誰がここにやってくるか分からない。


 おれはルビィを抱えたまま、どこか他人事のようにその場を後にした。


 町は静けさを取り戻していた。


 先刻までの騒ぎが嘘のようだった。


 そういえば、マロンはどこへ行ったのだろう。


 敗北を悟る直前、母さんが逃したのだろうか。それとも……いや。


 とにかく、無事を祈ろう。


 満天の夜空を見上げる。


 おれは弱い。


 どうしようもなく無力だ。


 強くならなければ。


 手に入れなければ。


 誰にも負けない強さを。


 大切なモノを失わないために。


 ただ、強くなろう。





 あれから二週間が経っていた。


 あの夜、おれはガビの町を出た。


 既におれとルビィの遺体が無くなっていることは発覚していることだろう。


 刺客が仕向けられているかもしれない。


 だが、そんなことはおれには関係ない。


 強くなる。


 今はそれだけを考えていればいい。


 つい昨日、ガビの町から最も近いメイローという町に着いた。


 そこで話を聞いたところ、ある男が冗談交じりに、強くなるためにうってつけの場所があると言った。


 しかしそれは場所というより、危険地帯だった。


 分かりやすくするために、順序よく話そう。


 ガビの町から出たことがないおれは詳しく知らなかったのだが、この世界には五つの大陸が存在する。


 火の大陸、水の大陸、風の大陸、土の大陸、雷の大陸の五つ。ちなみに、おれがいるのは風の大陸だった。


 そして、五つの大陸の他にも、世界には不思議な島や場所があるわけだが……その中の一つに”ミアズマホール”という場所がある。


 ”ミアズマホール”は世界地図の中央に位置する、直径数百キロにも及ぶ大穴だ。


 古来より幾万もの探検家たちが魔物を連れてそこを目指し、そして二度と帰ることはなかった。


 原因は、”ミアズマホール”から噴き出し続ける膨大な量の霧。


 それは瘴気と呼ばれ、今や瘴気は世界中を覆い尽くしている。


 そう――この風の大陸にさえ、瘴気は霧のように漂っているのだ。地図上に雲のように分布する瘴気は、古来より人々の生活に強い影響を与えている。


 とはいえ、瘴気を吸っても人体に害はない。


 問題は、魔物が瘴気を吸った場合――魔物は理性を失う暴走状態に陥り、見たもの全てを喰らう怪物と化すのだという。


 かつての探検家たちも、怪物と化した――通常は凶化と呼ぶ――相棒の魔物、もしくは野生の魔物の手によって命を落としたのだろう。


 そう、つまり、魔物を連れておらずとも、瘴気が漂う地域に入ること自体、自殺行為なのだ。瘴気の中には凶化した野生の魔物たちが跋扈してるからだ。


 とまあ……おれが聞いた話はここまでだ。


 その話を聞き、おれは街道を外れて瘴気に包まれた森の前までやってきていた。


「一応来たはいいが……さすがに自殺行為か」


 いくら強くなりたいと言っても、瘴気でルビィが暴走してしまったら本末転倒だ。


「って、ルビィ!?」


 たたっ、とルビィが森の中へと走っていく。


 そして、何とも無いとった様子でぴょんぴょんと跳ねている。


 心なしかテンションも上がっているようだった。


「ルビィ……平気、なのか?」


「きゅうー!」


 なぜだ。


 魔物が瘴気を吸うと暴走するんじゃなかったのか?


 ……まあ、いいか。


「ごくり……」


 意を決し、瘴気が漂う森の中へと足を踏み入れた瞬間――正面にある木が、ぽきりと折れた。


 ずぅん、と木が倒れた音で我に返ったおれは、信じられないものを見た。


「ゴブ……リン……?」


 立っていたのは、どう見ても死にかけのゴブリン。


 一見すると普通のゴブリンだが、目が紅く光っている。


 おれは言いようのない恐怖で一歩も動けず、だが、どうにか右手の人差し指をゴブリンに向けた。


 モンスターリングには対象の能力を少しだけ開示する機能が備わっているのだ。


 ――対象の簡易ステータス、表示します。▼


===


【ゴブリン】LV.A 状態:凶化


===


 なっ……A!?


「ただのゴブリンがなんで……そ、そうか!」


 凶化した魔物は、目についた生物を手当たり次第に喰らう。


 そして、瘴気の中ではどんな魔物も凶化している状態。


 つまり、ここでは常に、凶化した魔物と凶化した魔物が喰らい合う、過酷な食物連鎖が行われているわけだ。


 この森で今も生きている魔物は、全員がその争いで勝ち残ってきた猛者。


 だから、あのゴブリンは強いんだ。


 だが……ヤツは重傷だ。


 今なら、勝てるかもしれない。


 どうする。


 やるか。


 万が一反撃されたら、死ぬかもしれない。


 いや。


 ここで逃げたら、これ以上前に進めないような気がする。


「…………行けるか、ルビィ」


「きゅう!」


 よし。いくぞ……


「ルビィ、【ファイア・ブレス】!」


「きゃうっ!」


 ルビィの口から火の球が射出される。


 能力が上昇したからか、威力は以前の比ではない。


「ぎいぃぃぃ!」


 お。


 避ける体力もないのか、直撃した。


 だが。


「い、生きてやがる……!」


 なんつー生命力だ。


「ルビィ、【ファイア・ブレス】! 【ファイア・ブレス】! 【ファイア・ブレス】! 【ファイア・ブレス】――」


 ひたすら【ファイア・ブレス】を打ち続け――凶化ゴブリンが息絶えたのは、三十分後だった。


「はぁはぁ……よ、ようやく倒した」


「きゅう……」


「よくやったな、ルビィ」


 抱きかかえてわしゃわしゃしていると、不意に頭の中に文字が浮かび上がった。


 ――魔物がレベルアップしました。▼


 ――魔物の能力がアップしました。▼


 ――魔物のステータスを表示します。▼


 お、成長したか。どれどれ……


===


 【ルビィ】LV.D 種族:フェンリル(変異体) 進化状態:最初期(進化可能)


 物 攻:A

 特 攻:S

 物 防:B

 特 防:B

 体 力:C

 速 度:S

  運 :A


 特殊スキル:炎無効、憎悪

 スキル:ファイア・ブレス


===


 ……えっ?

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