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失格の魔物使い  作者: 原子牛
Chapter1 絶望
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2 雷鳴とともに

「……ただいま」


「おかえり、クラウド! どうだった?」


 家につくと、笑顔の母さんがおたまを片手に出迎えてくれた。


 おれはその顔を見て唇を震わし、ぽつりと呟いた。


「母さん……おれ、Fランクだったよ」


「え……」


 母さんは一瞬信じられないという表情を浮かべたが、すぐさま優しい笑みになって、


「そう……今日は腕によりを振るって料理を作ったから、好きなだけ食べていいのよ」


「母さん、ごめんな」


 不出来な息子で。


 いつもは口ごたえばかりしてたけど、将来は必ず立派な魔物ブリーダーになって、母さんを楽にさせると決めてたんだ。


 それがおれの夢だったんだ。


 なのに、なのにおれは――。


「クラウド……っ!」


 突然、ぎゅっと母さんに抱きしめられた。


 今朝よりも強く、優しく。


「いいの……あなたが謝る必要なんてないの。今日はもう、部屋でゆっくり休みなさい」


 その言葉を聞いた瞬間、おれは泣いた。


 久しく、母さんの胸の中で号泣した。


 胸がしめつけられるようだった。




 その夜。


 昼間から寝ていたためか、一度眼が覚めるとなかなか寝つけず、おれはこっそりと家を抜け出して、夜の町を一人散歩していた。


 暗い夜道を歩いていると、様々な考えが頭を過ぎる。


 なんで自分だけが。


 魔物を愛する気持ちなら、誰にも負けないはずなのに。


「…………おれが何をしたってんだよ」


 分かっている。


 誰のせいでもない。


 ただ自分に才能がなかっただけだ。


 理由が明快だからこそ、やるせない。


「これから……どうやって生きていけばいいんだ」


 人と魔物が深く関わる社会。


 失格者(Fランク)に何ができる?


 いくら考えても、暗い未来しか浮かんでこない。


 最悪な気分だぜ……心の底から。


「……?」


 ふと、通りすがった建物から光が漏れているのを見付けた。


「ここは……町長の家か」


 こんな夜遅くまで何をしているのだろう。


 単なる興味本位で、おれは窓を覗いてみた。


 すると――


「それにしても助かりましたよ、ダック神官。これでクラウディオの未来は永劫に閉ざされたわけだ」


 ……は?


 なんだ……おれの話?


 中にいるのは、町長とダック神官だ。二人とも大分酔っている。


「いえいえ、町長。こちらとしてもクラウディオくんは将来邪魔な存在になると踏んでいましたからね。こうして失格者に仕立て上げられたのはこの上ない僥倖と言えましょう」


 おい……今なんて言った。


 失格者に仕立て上げられた? おれが?


 なぜだ……なんのために?


「なるほど、たしかにあいつはいずれ計画を邪魔する可能性がありますからね」


「そういうことです」


 計画って、なんだよ。


「そもそもね、ダック神官。俺は昔からあのガキが嫌いだったんですよ。妙に魔物に好かれるとこも、小生意気なとこも、何もかもが癇に障ってしょうがない」


「はは、同感です。町の人々の中には彼を好いている者も多いらしいですが、しかし彼もこれからは差別されるようになるでしょうね。失格者の末路は、どれも孤独でむごたらしい。親族である母親も同様に虐げられる運命にあるでしょう」


「ああ、あの女ですか。あれはかなりの上玉ですから、それはややもったいないですな。ぜひとも手に入れたい」


「ふふ、町長も物好きですね。わかりました、いずれそうなるように手配しましょう」


「さすがダック神官は話が分かるお方だ」


「いえいえ。町長は大切な投資者ですから……」


 いてもたってもいられず、おれは走り出した。


 なんだよ。全部仕組まれてたってのか。


 ずりーよ。


 そんなの、どうしようもねーじゃんか。


「ふざけんなよ……ふざけんなよ……ッ!」


 優しいと思っていたダック神官も、頼れる人だと尊敬していた町長も、揃ってクズだった。


 ぽつり、と。


 不意に頬に落ちたそれは、瞬く間に豪雨と化した。


 冷たいシャワーが降り注ぐ空を見上げる。真っ暗だ。


「……くそっ」


 もう。


 もううんざりだ。


 帰ろう。




 もう少しで家につく。


 身体がびしょぬれだ。


 帰ったら風呂に入ろう。


 寒くてしかたがない。


「……ん?」


 暗い地面に、何かがうっすらと流れている。


 黒いような、赤いような何か。


 それを辿って行くと、おれの家まで続いていた。


 だが、雨に掻き消され、流れはそこで途切れている。


「!」


 今、何か聞こえた。


 音のした方――自宅の裏手に回る。


 泥棒、だろうか。


 寒さと恐怖に震えながら、倉庫の前に立つ。


 扉が僅かに開いている。


 二十センチほどの小さな隙間。


 屈みこんで調べる。


 扉は赤い血に濡れていた。


「まさか――」


 おれは勢いよく扉を開ける。


 刹那、天空で雷が瞬いた。


 一瞬だけ世界が明るくなる。


 そこにいたのは、怪我をした一匹の小さな魔物。


 黒い毛並みにルビーの瞳を持つ、見たことの無い魔物だった。

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