例の部屋@男二人と女一人が閉じこめられた部屋の外で勇者が苦悩する話
この作品が世に放たれたのは全部、せいほうけい先生の
https://twitter.com/sehoke_p/status/1034224106235777024
この発言が原因……じゃなくて、先生のおかげです(・ω・)
あと、せいほうけい先生の「ダンジョンの恋愛事情」もよろしくね。
https://seiga.nicovideo.jp/comic/35361?track=list
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ガシャン!
三人の背後で、鍵が閉まる音が聞こえた。
慌てて戦士が扉を叩いたものの時既に遅し、その扉は堅く閉ざされている。
「ちくしょう! こんな典型的なトラップ部屋に引っかかっちまうなんて!」
ガクリと膝を落とす戦士の横で、魔法使いが開錠魔法を唱えた。
「アンロック!!」
手から放たれた光が鍵穴に吸い込まれると……そのままポンという軽い音とともに煙となって消えてしまった。
「私の魔法でもダメみたい。これは相当手の込んだ魔法……いいえ、呪いの類いですわね」
冷静に状況を述べる魔法使いの言葉に、戦士は地に膝を付けたまま青ざめる。
それを尻目に、僧侶が扉の外に向かって呼びかけた。
「勇者さーん! 外に開けられそうなスイッチとかヒントはありませんかー?」
「扉に何か古代文字が浮かんでいる! 今から翻訳するから、しばらく待っていてくれ!」
解決策を見つけだした勇者の言葉に、閉じ込められた三人はほっと胸をなで下ろした。
「……互……交……絶……性……」
扉の向こうから聞こえてくる勇者の呟きに三人は関心している。
「我らの勇者様は古代文字まで読めちまうとはなぁ」
「当然です。彼は我が国きって……じゃなくて、伝説の勇者様なのですものっ」
「おやおや、また魔法使いの"私の"勇者様自慢ですか?」
「どうして"私の"だけを強調するのです!?」
そんなたわいもない話をしている最中、戦士がハッと重要な事に気づいた。
「これ、便所に行きたくなったらヤバくね?」
「た、確かにっ!?」
「うぅ、貴方達はそこら辺で適当に立ってすれば良いでしょうけど、私はどうすれば……」
確かに、パーティの紅一点な魔法使いにはトイレ事情は死活問題だ。
(色んな意味で)早くここから脱出せねば……と三人が心に誓った直後、外から「読み終わったよ…」と声が聞こえてきた。
だが、その声のトーンから状況が芳しくないのは明らかだった。
「お、おい勇者! 何て書いてあったんだよ! まさか二度と開かないとかじゃないよなっ!?」
「……いいや、開け方は書いてあった」
最悪の事態は避けられる事が判明し、戦士は安堵の息を吐いた。
だったら、勇者の声が暗いのはどういう事なのだろうか?
「勇者様、扉には一体なにが書かれていたのですか?」
魔法使いの質問に、勇者は扉の向こうで黙ってしまった。
こんな事を言えるはずが……!
「……命令です。言いなさい」
魔法使いの口調の変わりように戦士と僧侶はかなり驚いたが、本人は気にする様子も無く「聞こえなかったの? 答えなさい」と続けた。
「……鍵を開ける条件は、性交渉による……絶頂……だ」
「「何っ!?」」
「……なるほど」
驚愕する戦士と僧侶とは対照的に、魔法使いは目を伏せて静かに呟いた。
「つまり、この中でまぐわえば出られるのですね?」
「姫っ!! それだけはなりませんっ!!!」
魔法使いに対して放った勇者の言葉に、再び戦士と僧侶は驚愕する。
「え、姫って……え、マジで?」
「やけに気品があったり、勇者が妙に気を遣うと思っていましたが……なるほど、そういう事ですか」
二人の反応に対し、姫は「別に秘密って程の事じゃなかったけどね」と苦笑しているものの、扉の向こうでは勇者が地に膝をついて涙していた。
「このような失態で姫様を傷物にするなど、国王陛下に会わせる顔がありません。たとえ我が命を引き替えにしてでも、この扉を破壊して……」
「滅多な事を言うものではありません! 勇者様がここで果てたら、世界はどうなってしまうのです? それに、貴方の居ない世界に何の価値があると言うのですか。そのような救いのない方法で私達を助けると言うのであれば、たとえ出られたとしてもすぐに私は自ら命を絶ち、貴方の後を追います」
「そんなっ! 俺は……俺は…………ちくしょうっ!!!」
ドンッ!!!
扉に拳を叩き込むも、当然びくともせず。
勇者は己の無力さに苦悩し、その場にうなだれた。
「……さて、脱出方法が分かったのですから、こんな所に長居しても仕方ありませんね」
姫の言葉に戦士と僧侶の心臓が跳ねる。
「ってことは……」
「先ほど言った通りの事をすれば良いのでしょう?」
「ですよね」
二人にとって魅惑的な話ではあるが、先程の話……というよりも日頃のやり取りから、勇者と姫が相思相愛なのは分かり切っているわけで。
脱出の為とはいえ、この流れはかなり気まずい。
だが、今この場における最大の問題、それは……
『戦士と僧侶、どちらが事を成すのか?』
この一点である。
二人とも言葉には出さないものの、一国の姫と夢のようなひとときを過ごせる千載一遇のチャンスに胸が躍らぬはずもない。
たとえ後で誰かに非難されたとしても「不可抗力」という最強のカードもオマケで付いてくるのだ。
姫が選ぶのは……どっちだ!
「それでは二人とも、服を脱いでくださいな」
「「えっ!?」」
姫の口から出た思わぬ言葉に、二人は絶句。
服を脱いで……それは分かるのだが"二人とも"という事は、先程の「どちらが事を成すのか」という前提条件が崩れてしまう。
つまり三人で……。
「それでは二人とも、こちらにどうぞ」
「「は、はいっ!!」」
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ドアの向こうからは何やら物音がしている。
今、この向こうで何が行われているのかは……言うまでもないだろう。
つい興味本位で勇者が扉に耳を近づけると……
「すごい……こんなの……初めて……」
勇者は慌てて扉から離れ、己の行動を後悔した。
だが、自分でも理解し難い謎の感情に後押しされ、再び扉に近づくと……
「……ふふ、ほらここ……繋がってます……」
勇者は扉から飛び退くと、再び後悔の念に頭を抱えた。
しかし、勇者は懲りもせずまた扉に近づくと……
「……ふぅ、とても満足しました」
「ノォーーーーーッ!!!」
さすがに感情が耐えきれなくなったのか、前のめりに倒れて扉にぶつかると、それと同時に呪いが解けて扉が開いた。
勇者はそのままドテッと、うつ伏せに転んでしまった。
「あっ、扉が開きましたよっ」
そう言ってパタパタと姫が勇者に駆け寄ってくる。
心なしか顔が紅潮しており、その表情はとても満足げだ。
「……」「……」
そして部屋の奥では何故か戦士と僧侶が正座していた。
「お、お前ら……どっちがやった!?」
勇者は心の余裕の無さのあまり、デリカシーの無い言葉を投げかける。
だが、戦士と僧侶は顔を伏せたまま何も言わない。
うつ伏せで倒れた勇者が姫を見上げると、当の本人は恍惚の表情で応えた。
「勇者様……どっちが、ではありませんよ」
姫の言葉に勇者は困惑する。
それは一体どういう意味……?
「僧侶×戦士、ですよ」
姫が何を言っているのか理解できない。
「その……"×"って何?」
「攻めが僧侶で、受けが戦士、という意味ですね」
「攻め? 受け? 何かの闘いが……?」
ますます意味が理解出来なくなってきた勇者の言葉に、ついに我慢の限界に達した戦士はおいおいと泣き出してしまった。
そして、この手の話に疎い勇者も、戦士の反応を見て「ひとつの結論」に行き着いた様子。
「ま、ま、まさかっ……!」
「ふふ、とても良いモノを見せて頂きました」
そう言って頬に手を当てて笑う姫の顔は、とても満足げだ。
「いや、その……何だ……すまない」
正座の二人の前で思わず自分も正座してしまった勇者が申し訳なさそうに頭を下げたものの、戦士はシクシクと泣いたまま。
その一方で、僧侶は慈悲深い顔で首を横に振った。
「大丈夫です。もう一戦いけます」
「……」
あんまりな回答に勇者は正座姿勢のまま、つま先立ちでズズズ……と一歩後ずさる。
勇者は青ざめたまま斜め上を見上げると、姫は首を傾げていた。
「そうですね……もしも次に同じトラップにかかった時は、勇者×僧侶というのもアリかもしれませんね」
「いえいえ私は"攻め専"ですので」
「あらごめんなさい。僧侶×勇者に訂正しますね」
姫と僧侶の恐ろしい会話に耐えられなくなり、勇者は脱兎の如くその場から逃げ出した!
だがしかし……
ガシャンッ
「あらあら、また扉が閉まってしまいました」
「どうやら急いで脱出しないと、再びトラップが動き出すようですね」
「うおおおっ、開け! 開け!! 開いてくれぇーーーーっ!!!」
勇者が『伝説の剣』で扉をガンガンと叩くが、びくともしない。
そして、涙目のまま扉の前で震える勇者の肩に、そっと手が置かれた。
「ふふふ、もっと私を愉しませてくださいな」
――― 例の部屋@男二人と女一人閉じこめられた部屋の外で勇者が苦悩する話