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新米皇女の大冒険  作者: 湖乃一場
15/28

(14) 新米皇女はカヤの外

しばらく間が開いてしまいましたが、また一気に投稿します。

 リトアイザン城の豪奢な玉座に、王妃ビスマは、偉そうにふんぞりかえっていた。

 今、彼女は、来客を待っている。西方のビフォレス王国の王子ニルゼンが、突然、訪問してきたというのだ。

 国の間の往来がほとんど途絶えたこの時代には珍しく、ニルゼンは何度かこの国に来ている。しかし、ビスマは会うのは初めてだ。前回ニルゼンが訪問してきたのは、ビスマが王妃になる前だったから。しかも、ニルゼンは最近、タンバート王国にばかり行っていたのから。

 仮にも他国の王子を迎えるのに、玉座に座ったままというのもどうかと思うが、ビスマはそんなことはまったく気にしない。常に自分がいちばん偉いと思っているタイプなのだ。

「ビフォレス王国のニルゼン王子殿下、お見えになりました」

 侍女の告げる声に、ビスマは、にやりと笑った。「歓迎」の準備は万端なのだ。

 正面の大きな扉が、左右に開く。

 ビスマは、すっと立ちあがった。そして、右手をさっと上げる。その合図で、横に待機していた楽団が、音楽を演奏し始めた。

 灯りが弱くなり、暗がりが玉座の間を支配する。いくつかのスポットライトが、ふわっと点灯する。火ではなく、どうやら魔法を使った灯かりらしい。そのスポットライトは、玉座の前に立つビスマを集中的に照らしていた。

 上から、糸で吊るされた小さな光が、たくさん降りてくる。そして、ビスマが両手を広げると、衣装にも同じような小さな光が光り始める。それがだんだん部屋の中に広がっていくのだ。なかなか幻想的な光景である。

 ビスマの衣装は、頭からつま先まで、真っ赤。そこに、たくさんの光が浮かんでいる。ビスマが手を動かすと、光もゆらゆらと動く。セットも衣装も、問題なく動いているようだ。ビスマはご機嫌だった。

 そうしているうちに、正面の扉から、白い霧が流れてきた。

「なに?」

 いぶかしがるビスマ。こんな演出は、用意していないはず。

 そこに、シンバルを強打する、大音響が!

 ジャーーーーーーーーーーーーーーン!

 ビスマだけでなく、玉座の間にいた人々は、思わず耳をふさいだ。楽団の音楽も止まる。

 扉のあたりが急に明るくなり、ニルゼン王子とその従者の姿が浮かび上がった。ニルゼンは、右半分が赤、左半分が白という、ちょっとおめでたい、キテレツな衣装だった。なんとなく道化師を連想させる。2人の従者は、ニルゼンに似た格好だったが、背の高いほうが赤一色、背の低い方が白一色。この2人もまた、道化師風だ。ニルゼンは四弦琴を、従者たちはシンバルを持っている。

 ふわり、と床からたくさんの赤いものが宙に浮かび上がった。よく見ると、すべて、小さな花だった。それがふわふわと宙に舞っている。

 ニルゼンが四弦琴を弾き始めると、従者たちは、それにあわせて歌い始めた。

「見よ対岸に咲く花を。君手を伸ばし手折れるや」

 ちょっと昔にリトアイザンで流行った歌謡だ。ソプラノとアルトの、美しい二重唱。従者たちは顔を赤と白の仮面で覆っているが、少女か、変声期前の少年なのだろう、と思われた。

「くっ」

 演出で負けるわけにはいかない。ビスマは、これに対抗するため、さらに演出レベルを上げることにした。合図をすると、色とりどりの布をまとった女たちが、ビスマのまわりを踊り始める。そして、楽団は、いきおいのある派手な音楽を鳴らし始めた。

 さらに、カラフルな小鳥たちが何十羽も、さえずりながら飛びまわる。

 しかし、ニルゼンは動じない。ゆっくりと、四弦琴をぽろんぽろんと鳴らしながら、歩いてくる。一歩あるくたびに、左右に赤い花が舞い散る。そして、ニルゼンの背中から、するすると赤い羽が3枚、白い羽が3枚、伸びてきた。いつのまにか、その周囲には、赤色と白色の蝶が、たくさん飛んでいる。

 もはや、あとには引けなかった。ビスマとニルゼン、ふたりの意地が、真っ向から激突する。にらみ合うふたりの視線からは、まるで火花が散っているようだ。

 ニルゼンをにらみつけたビスマの両手から、水が噴き出す。

 もはや、ビスマの立っているところはステージと化していた。玉座は床下に引っ込み、そのかわり、全体的にせり上がってきている。ニルゼンの立っている位置よりも、ビスマの立っている場所の方が高い。ビスマは、そこからニルゼンを見おろしていた。

 ビスマの両手から生まれた何本もの細い水の流れが、縦横無尽にステージを暴れまわる。

 水の中にも、たくさんの光が、散りばめられている。

「ホーホホホホ! これ以上に派手な演出が、あなたにできるかしら?」

 勝ち誇ったように笑うビスマ。いくら演出といっても、こんなことが普通の人間にできるはずがない。ビスマとは、いったい何者なのだろうか?

 しかし、ニルゼンもひるまない。ゆっくりと、ビスマに近付いていく。

「空と大地の両端を、怒りをこめて結ぶもの!」

 ビスマは、はっとした。これは、ニルゼンの声ではない。ニルゼンの後ろにいる小さい方の従者が、小声でつぶやいているのだ。

「ま、まさか、それは?」

「汝、その力もて、我が敵を突き破れ」

 従者に扮したファナールが、呪文を詠唱していたのだ。今の時点で使える、最大最強の呪文を。

 ぱりん!と、ファナールがかぶっていた白い仮面が割れた。青い光が、きらきらと髪にまといつく。

「ピカーディア!」

 右手でビスマを指差すファナールの叫びとともに、細長い光の矢があらわれた。「ピカーディア」は電撃の攻撃魔法の上級。師のセガルスが得意とする「ピカドラス」のように広範囲に落雷させるのではなく、ただ一点のみを貫く強力な電撃だ。

「まずい」

 言うまでもなく、水は電気を通す。ビスマは、自分の魔法で展開していた水を、あわてて手元に戻そうとしたが、わずかに間に合わなかった。

 ドゥオーーーーーーーン!

 電撃の矢は、水を突き抜け、ビスマの胸に、深々と突き刺さる。

「ぐ、ぐぅっ! おのれぇ!」

 胸に開いた黒い穴がを手で押さえながら、ビスマはうめく。

「おのれおのれおのれぇえっ! この『水の魔女』ビスマの美しい体に、よくも傷を付けたなあぁっ!」

 その声とともに、ビスマの姿が変わっていった。耳がとがり、口が大きく裂ける。そして、周囲にどす黒い闇が染み出していく。

 ぽんっ、という音とともに、ファナールの姿がピンク色のスライムに変わってしまった。まさに一発勝負の魔法だったのだ。うまく行かなければ後はない。いや、うまく行っても後はない、と言うべきか。

 「水の魔女」。それがビスマの正体だった。北の魔王の配下にある四天王の一人で、「水の女神」ナイベルのライバルに当たる。

 ビスマの演出過剰な見栄っ張りという性格を利用して、通常は体内にある魔力の水を外に放出させるのが、今回の作戦の中心だった。ニルゼンが挑発すると、ビスマは案の定、乗ってきた。ライバルを圧倒する切り札として、水を使ってしまったのだ。そして、本体の防御力は大幅に低下した。そこを、一撃必殺の魔法で攻撃!

 この作戦は、シャインの家にいたニルゼンたちを訪ねてきた、謎の占い師から授けられたものである。その占い師は、例によって正体を隠しているつもりなのだが、水の女神様だということがバレバレだったのは言うまでもない。……一部、本当に気が付かない人もいたようだったが。

 そして、ファナールが全魔力を動員して放った必殺の電撃は、ビスマを貫いた。しかし。

「くくくっ! メイジスライムがそいつの正体か。もはや、打つ手はないようね?」

 ビスマが、苦しげな笑みを浮かべながらも、近付いてくる。ステージはなくなり、ニルゼンたちとビスマは、同じ高さになっていた。

「スラスラ!」

 訳してみよう。「正体じゃないっ!」と言っているらしい。人間の姿の方が本来の姿なのだから、この怒りはもっともだ。

「王妃様。ひとつお聞きしたい」

 ニルゼンが、余裕たっぷりの口調で話しかけた。

「最近、この城で雇われた赤い髪の侍女が何人か亡くなっています。しかも、全員、水死だそうですが、王妃様は、何かご存知ですか?」

「ふ。そんなことか。水の加護を受けた赤い髪の娘を探しているのよ。加護を受けていない娘が、水におぼれてしまっただけのこと」

 ビスマが、なんでもないことのように答えると、ニルゼンの目が、かっと見開かれた。

「フォルという侍女がいたはずですが?」

 ビスマは、にやりと口をゆがませて、

「なんだ。おまえ、あんな色気もなにもない子供を?」

「もちろん。愛していますとも。私のすべてをささげるべき方です」

 堂々、胸をはるニルゼン。この人には、「照れ」というものがないらしい。

「あの方と同じベッドで朝を迎えるためなら、全力をあげてあなたを討つ!」

 ニルゼンの周囲に、風が巻き起こる。ニルゼンの静かな怒りが、空気を震えさせているようだ。

 ……それにしても、最後のセリフ、本人が聞いていなくてよかった。聞いていたら、ニルゼンの生命は、ビスマとの決戦以前に危うかったかもしれない。


 クオンは、目を覚ました時、自分がどこにいるのか、わからなかった。しかも、頭も体も、妙に重い。

 どうやら、ベッドに寝ているらしいが、意識がはっきりせず、ようやく開いた目から見える風景も、ぼんやりとしていた。

「ひ、じゃなくって、フォルさん、気が付かれたんですね?」

 横の方から、そんな声が聞こえた。

 どこかで聞いたような声だけど。

 そう思いながら、首をちょっと動かして、声の方を見る。

 水にぬらしたタオルを持ったまま、心配そうにこちらを見ていたのは、真っ赤なロングヘア。クオンにどことなく似た顔立ち。

「メ、メア?」

 そう。それは、間違いなく、クオンの侍女のメアレインだった。もっとも、タンバート城で着ていた服とは違う、ここの侍女の制服を着ている。

 タンバート城にいるはずのメアレインが、どうして?

「ど、どうしてここに? ……うっ」

 上半身を起こそうとして、くらっとふらつくクオン。

「まだ熱が下がってないんです。寝ててください」

 そう言われて、おとなしくそのままベッドに横になる。メアレインは、そのひたいに塗れタオルを乗せ、毛布を首までかけてやる。

「いったい、どうなってるんだ?」

「水の女神様が、お力を貸してくださったんですわ」

「あいつらは?」

 クオンにかかると、王子様たちも「あいつら」でひとくくりにされてしまう。

「おそらく、今ごろは闘っていらっしゃるはずです。『水の魔女』ビスマと」

「ビ、ビスマって、ここの王妃様じゃないか!」

「そうです。この国を乗っ取ろうとしていたらしいですね」

 こうなったら、クオンは寝てなどいられなかった。無理に起きあがると、ふらつく足でベッドから降りる。

「姫様っ!」

 駆け寄って制止しようとするメアレインに、クオンは、

「剣は? ぼくは、剣を抱えてなかったか?」

 泉の底でおぼれかけたとき、クオンは目的のものを手に入れていた。視界に入った真っ赤な鞘の大きな剣を、とっさに抱えていたのだ。

「それなら、あそこにあります」

 メアレインの指さす先にあるテーブルの上に、その剣はあった。神々しい輝きに包まれた赤い剣。これこそが、伝説の「炎帝の剣」だった。

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