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新米皇女の大冒険  作者: 湖乃一場
14/28

(13) 新米皇女は新米侍女

「住みこみ侍女募集。赤毛に限る。経験者優遇。詳しくはリトアイザン城侍従室へ」


 そこには、そう書いてあった。

 道端に、いきなり、そういう立て看板が立っているのだ。これはもう誰が見ても、ツッコミどころ満載である。

「侍女に住みこみじゃないのなんて、いるのか?」

 まず、最初にクオンが突っ込んだ。

 クオンのいた城の侍女は、クオン付きのメアレインをはじめ、全員が住みこみ、というより、城が家そのものだった。通いの侍女なんて、聞いたことがない。

 次はファナールが突っ込む番だ。

「だいたい、なんで赤毛に限るわけ?」

 ところが、これには理由らしきものが考えられるらしい。アルダールによれば、

「リトアイザン国内では、赤い髪の毛は、正統なアストベール帝国人の末裔である証しとされてるから、人気があるのよ。じっさい、王家を筆頭に、お城の中には、赤毛の人が多いわ」

 と、いうことらしい。その割には、クオンと同様にアストベール皇帝の末裔であり、れっきとした国王の息子であるアルダール本人は、なぜか、赤毛でなく栗色の髪なのだが。

「なるほど。リトアイザンの侍従室というのは、誰でも入れるところにあるのですね」

 ニルゼンが、さりげなく3つめのツッコミを入れた。本人にツッコミのつもりがあったのか、単なるボケなのかわからないが、考えてみれば、応募しようにも、城の侍従室などに、一般の女性が近付けるはずがない。

 ところが、これもアルダールから解説がついた。

 リトアイザン城の前には、城内の各セクションあてのポストがあるのだった。それに手紙を投函しろということなのだろう。

「妙に開かれた城なんだな」

 クオンの感想は、ごく普通の感覚だと思う。

「というわけで」

 ファナールは、そう言いながら、クオンをびしっと指差した。

「クオンの次の役目が決まったわね」

「へ?」

 クオン、あいかわらずニブイ。読者の皆さんは、サブタイトルでとっくにお気付きのことだろう。

「あたしたちの中で、赤毛って言ったらクオンしかいないっしょ!」

 ファナールの宣告に、クオンも気付いた。

「なるほど、これに応募して城の中に入ったら、中から、みんなが入りやすいように細工をする、と」

「上出来上出来」

 ファナールはご満悦。

「そうと決まったら、さっそく」


 クオンたちは、リトアイザン城下の街に到着すると、アルダールに案内されて、アルダールの生母が住む家を訪ねた。

 ちょっと妙な話だ。国王の世継ぎの母親が、なぜ城外の普通の家に住んでいるのだろう?

「母は、国王の正妃ではないのよ」

 アルダールが、説明する。つまり、国王陛下が普通の町娘にお手をおつけになって、アルダールが生まれたのだ。世継ぎを生んでも、母親の立場は変わらない。あくまでも王妃ではないのだ。現在の王妃はビスマという若く妖艶な美女である。前の王妃が亡くなった後、ちゃっかり王妃の座におさまってしまった。

 アルダールの母、シャインは、アルダールの友人たちを歓待した。そして、しばらくの間、滞留すること、というより匿うことを快く許してくれた。

 シャインの髪は、濃い栗色。アルダールの髪が赤くないのは、これが理由だったのだ。

 食堂で、シャインと4人は食卓を囲みながら、話をしている。食卓といっても、ごく質素な一般人の食事だ。この家の作りといい、世継ぎの生母と言っても、ぜいたくな暮しをしているわけではないらしい。そもそも侍女だって1人しかいない。余談だが、その侍女はフュイリという名の元盗賊。似たような名前の元盗賊がどこかにいたような気がするが、その話はまた後日。

「アルには、無理をさせちまったねぇ。あたしの若気の至りで」

 シャインが言うのは、アルダールを王子としてではなく、王女として公表してしまったことだ。そう。犯人はシャインだった。皇帝の末裔の娘を産んだとなれば、予言の「白き光の皇女」である。若かったシャインは、これで国王の歓心を買えると思ったのだ。しかし、残念ながら、シャインの立場は変わらなかった。

 シャインは、今さらあとには引けないので、アルダールがある程度大きくなるまで、自分の家で育てた。男だとばれることがないように。

「で、なんだい? あたしに頼みってのは?」

 このお母さん、城の中でもこんな調子の話し方らしい。王妃になれないのは、これも理由の一つなのではないだろうか、とクオンたちは、ちらっと思った。思っただけで口には出さないのは、モラルある社会人としての知恵である。

 アルダールは、シャインに自分たちの計画を話して、協力を求めた。

「ふうん。そういうことなら、あたしがその子を侍従室に連れてってあげるよ。イヤとは言わせないさ」

 カラカラと笑うシャイン。この人、意外に権力も持っているようだ。まぁ、敵に回したくないタイプかもしれない。

「でも、そんな男の子みたいなナリ、してちゃダメだね」

 当然の意見だろう。アルダールたちも、うんうんとうなずいている。

「あたしが昔着てた服があるから、貸したげるよ。採用されたら、仕事着は支給されると思うけど」


 シャインの口添えで、クオンはあっさり採用された。しばらくは見習いという立場ではあるが、いきなり、国王陛下の担当になってしまった。クオンは、侍女の仕事などしたことあるはずがないが、何しろ宮廷の礼儀作法が一通り身についている。しかも、物心ついたときから侍女という存在がすぐ側にいたので、侍女の仕事もある程度わかっている。採用する側からすれば、得がたい人材に見えたのだろう。侍従室長と侍女頭によるいくつかのテストに、クオンは楽々合格した。

 今、クオンが着ているのは、仕事着として渡された侍女用の服。濃い青色のメイド服だった。スカートがまつわりついて動きにくいのだが、これも定められた制服なのでやむを得ない。

 今さらながら、年中こんな格好でいるメアレインのことをスゴイ、とクオンは思う。腰は苦しいし、胸は苦しいし、首は苦しいし、腕は苦しいし、足はすーすーするし。だいたい、朝、髪を整えるだけで、大変なのだ。ふだんはぼさぼさ頭のクオンだったが、ここではそうもいかない。ぶつぶついいながら、床のぞうきんがけをしているクオンだったが、まあ、ここの生活も、なかなかいい社会勉強にはなっているようだ。

 クオンは掃除している部屋は、国王の私室である。国王は、病気で臥せったままなので、すぐそこのベッドで寝ている。だから掃除もバタバタ大きな音を立てるわけにはいかない。

 リトアイザン王国の現国王、エルダール1世。アルダールの父である。クオンと同じく、アルトベール皇帝の末裔。優しく、面倒見がよくて、民に慕われる王だったが、近年重い病気にかかり、ずっと寝たきりになっている。現在は、王妃ビスマが実質的に国王代理として政務を見ていた。

 クオンが来てから、エルダール1世は、ほとんど眠ったままだった。目をさますのは、食事をする時ぐらいなのだ。その時も、ほとんど会話らしい会話はない。

「誰か……おるか?」

 弱々しい声が、ベッドの方から聞こえた。クオンはぞうきんをバケツに放り込んで、ベッドの脇に駆けつけた。

「はい。陛下」

 国王は、上半身を起きあがらせていた。そしてクオンを見ると、

「おお、アルではないか」

 なぜか、クオンのことを、アルダールと勘違いしているのだ。

「あの、わたしは」

 そう訂正しかけたのだが、国王はクオンを見つめながら、

「アル! ビスマ、ビスマを……っ!」

 苦しげにうめきながらそこまで言って、どさっとベッドに倒れた。目も閉じてしまっている。

 やがて、寝息が聞こえてきた。また、眠り込んでしまったのだ。

「ビスマって……王妃様だよな」

 いったい何が言いたかったのだろう? ただ事ではなかったが。


 玉座に、王妃ビスマは座っている。実年齢は不明だが、見た目は25歳ぐらいに見える。

 この国の実質的な最高権力者だ。

 ビスマは、玉座の座りごこちに権力を実感して、思わず口元をほころばせた。その笑顔は、まさに妖艶。しかし、美しさの中に、ぞっとするような闇も隠れていた。

 座っている玉座は、国王が座っていた時と異なり、妙に華美で贅沢なものになっていた。黄金をたっぷり使い、ごてごてと飾り立ててある。本人は美しく飾っているつもりらしいが、趣味が悪いと苦々しく思っている者の方が多い。誰も口には出さないが。

「フォルと言ったわね」

 ビスマがつぶやく。最近雇った新米の侍女の名だ。フォルとは、もちろんクオンの偽名。

「いちおう、確認しておくべきか。ちょっとおいで」

 そう言って、近くにいた侍女を呼んだ。ビスマが嫁いでくる時に付き添ってきた、ビスマ付きの侍女である。

「陛下のところにいる、フォルという侍女を、今夜、例のところへ」

「は。かしこまりました」

 感情の感じられない声で答え、侍女は玉座の間を出ていった。

 それを見送ってから、ビスマはつまらなそうに、

「まぁ、万が一ということもあるからねぇ」

 と言って、手に持った羽扇をふわふわと振った。

「わたしこそが、世界でもっとも美しいのよ。永遠にね」


 ランタンを持ったクオン  クオンは命じられた通り、夜になってから城の中庭の泉の前にやって来た。

 しかし、誰もいない。首をかしげていると、泉の水が止まった。不思議に思って、よく見ると、泉の水が引いていく。

 そして、そこに、地下に続く階段が現れたのだ。

「ここを降りろってことかな? 妙な仕掛けだなぁ」

 例によって疑うことをしないクオン。すなおに、その階段を降りていった。

 石造りの古い階段だ。かなり昔から、ここにあるのだろう。おそらく秘密の部屋への入り口として。

 階段を降りきったところに、扉があった。何もしないのに、その扉が勝手に開く。

 クオンは、不思議に思いながらも、その扉の中に入っていった。

「あのー。フォルですけどー。呼ばれてきたのですけどー」

 そう大声で呼びかけてみる。しかし、誰もいないようだ。

「あのー、すみませーん!」

 もう一度呼びかけた時、ギギーという音がして、背後の扉が閉まった。

「あ!」

 なんだかわけがわからないが、ここに閉じ込められたのだ。

 そして、頭上から、水がしたたってくる。ぽつりぽつり・・・

 少したつと、まるで天井が落ちたかのように、水は奔流となって、流れ落ちてきた。

 足元にたまりはじめた水が、あっという間に、ひざのあたりまで上がってくる。

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