(10) 新米皇女は再会する
金色の光に包まれたクオン、ファナール、アルダールの3人。
「うわっ」
ざばーーーーーーっ!
次の瞬間、今度は、いきなり水の中だった。
「ぶくぶーぶくぶくぶー!」
ファナールの口が動いている。何を言っているのかわからないが、危機的状況らしい。きっと、おぼれるーとか言っているのだろう。しかし、作者としては、助けてあげるわけにもいかないので、とりあえず状況の推移を見守ることとしたい。
しばらく、水中でじたばたして3人だったが、
「ぷはぁ」
突然、息ができるようになった。上半身が水から出たのだ。
クオンは、ぶんぶんと水を振り払いながら、あたりを見まわす。
すぐ横にファナールとアルダールもいる。よく見ると、水深は50センチぐらいしかないのに、みんなずぶぬれで、そこに座り込んでいた。
「ここはいったい?」 と、アルダール。
「神殿の中庭ってとこじゃないの?ほら、まわりは建物だよ。なんだか神殿っぽいし」
ファナールが言う通り、上は吹き抜けになっているが、周りは回廊のような建物に囲まれている。自分たちがいるのは、中庭の池の中という感じだ。
「外界との扉が、池の中にあるわけ?いちいち、びしょぬれになって出入りするのかしら?この神殿の人たちは」
アルダールが立ちあがりながらそう言う。
「不便ねー」
ファナールも、よいしょっと立ちあがる。
クオンも立ちあがろうとした瞬間、
「ようこそ、太陽神殿へ」
という声が聞こえた。3人が声の方を見ると、
池のそばの回廊に、神官の服装、しかもかなり高位の神官の服を着た女性が立って、こちらを見ていた。年齢は30過ぎというところか。にこにことやさしそうな笑顔。
「ミルバ神官長!」
アルダールが、明らかに顔を輝かせて、その名前を呼ぶ。
「あらあら、アルダール姫様ではありませんか。お久しぶりですね。ともかく皆さん、びしょぬれですわ。着替えを用意しますから、来てくださいな」
すたすたと歩き出すミルバ。事態がよく把握できないまま、クオンたちはその後を追う。
天井に、大きく「リッタ」と書いてある。「光」または「光の神」を意味する言葉だ。この部屋は、「光の間」とでもいう名前なのだろう。
クオンたち3人は、着替えとして渡された白くて長い服をはおっている。3人ともまったく同じ格好だ。
「ここは、客間なのですよ」
ミルバは、3人と向かい合わせに座っている。テーブルの上には、ミルバ自らが淹れたお茶が並んでいた。
「もうひとりも呼んだのですけど…遅いですわねぇ」
ミルバは、そう言いながら、閉まっている扉の方を見る。彼らがこの部屋に入ってきたのとは反対側の扉だ。
「もうひとり?」
「ええ。こんな時代ですから、すっかり人も減ってしまって、ここには私の他には、その人しか、いないのですよ」
「そうなんですか」
そんな話をしているうちに、その扉の外から、何か、音楽が聞こえて来た。
弦楽器だけの、なんだかしっとりとしたムードがありそうな曲だが、クオンたちが知らない曲だった。
しだいに音楽が盛り上がって、管楽器や打楽器も加わってくる。そして、音がだんだんと近付いてくるようだ。ミルバはその正体を知っているらしく、にこにこしているだけである。
音楽が最高潮に達した瞬間、ジャーーーーンというシンバルの響きと同時に、閉まっていた扉がばっと開かれた。そして、開いた扉からは、白い霧が流れ込んでくる。
いつのまにか、そこら中に白い花びらが舞っていた。
霧の中から、ゆっくりと、ある人物があらわれた。
やたらと金色や銀色の飾りのついた派手な神官服。背中には、左右3枚ずつの金色の大きな羽が広がっている。
その人物は、ひらひらと舞っていた白い花びらのひとつを右手で受け取る。
「こうしてまたお会いできるとは、やはり運命にはあらがえぬものなのですね」
その青年の声に、室内は、凍りついていた。……いろんな意味で。
クオンには、おなじみの男である。まさかこんなところで会うとは夢にも思わなかったので、当然のように、「げ」という苦い顔をしている。もちろんファナールも、会ったことがあるから知っている。
そして、アルダールも、その青年を知っていた。
「ごぶさたしています。ビフォレスのニルゼン王子殿下でいらっしゃいますよね?」
とアルダールが丁寧に聞くと、ニルゼンはあわてて、
「な、なんのことでしょう? 私はたしかにニルゼンですが、しがない一神官に過ぎません」
「ニルゼンさん、皆さん、あなたのことを知ってらっしゃるようですけど?」
ミルバが、笑顔を崩さず、そう指摘する。
「ミルバ神官長! ひょっとして、あなたも私の正体をご存知だったのですか? ……ああっ! 私は、なんと罪深いことをっ」
のたうちまわっているニルゼンを無視して、クオンは、ミルバに尋ねる。
「でも、なぜ仮にも一国の王子様が神官に?」
「仮にも」の部分が妙に強調されていたような気もしたが、その言葉を聞いて、のたうちまわていたニルゼンは、さっとひざまずいた。そして、微笑みを浮かべながら、
「私は、王になるより、神官になりたかったのです。愛する美しい姫君のために、お役にたてるのは神官しかないと思い、決意しました」
「姫君のためって言ったら、普通、騎士とか戦士じゃないのか?」と、クオン。
「私の愛する姫君は、その……お強くて、私など、まったく剣では歯が立ちませんでした」
「ふぅん」
「クオン。あんた、ひとごとだと思って聞いてない?」
ファナールが、そう言ってクオンをつつく。
「だって、他人の身の上話だろ?」
「別にいいけど」
そう言って、ふぅとため息をつくファナールだったが、ニルゼンの話は続く。目を閉じて思い出モードに突入しているようだ。
「私は、ある国の武闘大会に参加しました。優勝すれば、姫に求婚できるという」
それを聞いて、クオンも、ちょっと思い出したことが、あったらしい。
「タンバートでもあったな。そういうの。親父が言い出したんだ。たしか」
「その戦いで、私は勝ち進みました。そして、決勝戦。敵は私よりずっと小さい体格なのに、とても強かった!」
「へぇ」
「私は敗れました」
「そりゃあ、残念だったな」
「剣を落として倒れた私に、優しく手を差し伸べて、にこっと微笑まれたのです。ああっ。花のような、というのは、まさにあの笑顔のことを言うのでしょう!」
「なんだ。そいつって、気味の悪い男だな」
ニルゼンの身の上話に、いちいちクオンがあいづちをうっているのだが、話は全然かみあっていない。
話を少しは、かみあわせようと、ファナールが確認する。
「タンバートの武闘大会で、クオンは決勝戦に出た?」
「そりゃそうだろ。いちばん強いやつを決めるってのに、ボクを仲間ハズレにするなんて、許せないからな。でも、なんでファナールがそんなこと知ってるんだ?」と、怪訝な顔をするクオン。
「で、決勝で負かした相手に、手を差し伸べたのよね?」
「そりゃ、勝負が終わったら、そういうもんだろ?」
「そのとき、どんな顔、してたか覚えてる?」
「勝ってうれしかったから、うれしそうな顔は、してたと思うけど」
「で、その相手のひとって、誰?」
「さぁ。覚えてないな」
「と、いうことらしいわ」
ファナールは、同情を込めた目で、ニルゼンを見た。
「かまいません。『愛』とは、愛されることではなく、愛することなのですからっ!」
じ~ん。
よくわからない自己満足で陶酔しているニルゼンを横目で見て、ファナールはひとこと感想を述べた。
「アホね」
「なんだかよくわからないけど、こいつはバカなりにまじめな発言をしたんだぞ。アホはないだろ。アホは」
クオンが、まったくフォローになっていないフォローを入れる。
「ともかく、私のさだめは決まっていたのです。ミルバ神官長。この日のために、私は神官としての修行をしてきたのですから」
ここまでバカにされても、ニルゼンは、真剣だ。いや、格好が格好だけに、とても真剣には見えないのだが、真剣なのだ。信じてやってほしい。
クオンは、うんうんとうれしそうに、
「そうか。立派な神官になるんだな。これで、もう、ボクの前にあらわれることは……」
と、トンチンカンなことを言っている。まだ、わかっていないらしい。
ニルゼンは、ひざまずいたまま、さっとクオンの手をとり、キラキラ光る瞳でクオンを見つめた。
「姫! 不肖このニルゼン、神官として、姫のお供をさせていただきます!」
「へ?」
さすがにクオンも、自分が対象だという事に気付いたらしい。
「いいじゃん。クオン。神官の仲間は欲しかったんだから」
「ち、ちょっと待て。どういうこと?」
「だから、あたしたちと一緒に旅に出ようっていうんでしょ?」
ニルゼンは目を輝かせて、クオンを見つめていた。昔の少女マンガのヒロインみたい、といえばイメージがおわかりいただけようか?きらきらきらきら。もちろん、クオンの手を握ったままである。動転しているクオンは、その手をふりほどこうとは思いつかないようだった。
ともかく、4人の仲間が揃った。
アルダール。リトアイザン王国の王子。戦士。ただし、女装が趣味。
「さりげなく、いいかげんな解説をつけないでくださる? 女装は趣味でしてるわけじゃないのよ!」
ニルゼン。ビフォレス王国の王子。神官。ただし、変態。
「この超絶美形キャラである私を、変態とは心外な」
ファナール。魔導帝国の皇族の末裔。魔法使い。ただし、スライムに変身してしまう。
「ま、事実の列挙ね」
クオン。太陽帝国の皇女(ただし、本人は皇子と主張)。いわゆる勇者。
「本当に皇子なんだ! ボクはっ!!」




