堕ちた天使
「キリノはサイトウさんの呪いについて何を知ってる?」
急に真剣な表情をして詰め寄ったシヅキに、キリノはたじたじとなった。
「え、知ってるって言っても…” 花を飾ると呪われる ”、くらいしか…」
「その、” 呪い ”って具体的に何だと思う?」
「え…?」
キリノは首を傾げた。その横ではリコが同じような顔をして固まっている。
「どうしたの、シヅキ。いつもは呪いなんて信じてないのに」
いつになく真剣な表情のシヅキにエリカは戸惑っていた。
こんな真剣なシヅキは見たことがない。
「いいから、答えて」
シヅキはエリカに目もくれずにキリノに迫った。
キリノはしどろもどろに答える。
「ひ、人が…死ぬ、とか?」
「そう」
シヅキは感情のない声で呟いた。
「二十四年前の呪いでは、八人が殺された」
「な…」
リコがスナックの袋を手から取り落とした。
中身がばらばらと床に散らばる。
「シヅちゃん…なんでそんなに詳しいの…?」
「企業秘密」
そう呟いてシヅキは顔を歪めて笑った。
なんだか嫌な笑い方だ、とエリカは思った。
「呪われたくらいで死ぬなんて、人はとても脆い生き物だと思わないか」
シヅキは両手を広げて天を仰ぐ。
窓際のその姿は、まるで―
その時エリカの思考を遮るように、よく通る声が響いた。
「おい橋本。校内は菓子類持ち込み厳禁だぞ」
「ああっ」
リコが慌てて袋を背後に隠すが、時すでに遅し。
床中に散らばったスナックは隠せない。
生徒指導の田邊先生は散らばったスナック菓子を眺めた。
「反省文を書いてもらおう。あと、床掃除な」
「うそぉ?!」
嫌がるリコを田邊先生は無情にも連れて行った。
「うわ…生活指導の田邊に捕まるなんて…」
キリノは青ざめ、生きて帰れるかしら、あの子、と呟いた。
エリカがシヅキを横目で見ると、シヅキは冗談まじりに念仏を唱え始めたところだった。
いつも通りの、シヅキだった。