記憶
「ここ、は…」
小さな声が聞こえる。聞きなれた声。
「シヅキ…?!」
夢の中のエリカは、はっと身体を起こした。
「目が覚めたの?シヅキ!…よかった…!!」
夢の中のエリカはシヅキを抱きしめようとしたが、露骨に避けられる。
見るとシヅキは目を見開いて、小さく震えていた。
「あ、あなた誰?」
「え…?シヅキ、何言ってるの…?」
泣き出しそうな笑顔を浮かべていた、夢の中のエリカが硬直する。
「シヅキって誰…!私は、どうして、生きて…」
混乱したように辺りを見渡すシヅキに、夢の中のエリカが近寄ろうとした。
「い、嫌、来ないで!」
「知らない…!あなたのことなんて、知らない…っ!!」
シヅキは毛布を強く握りしめ、自分の方へ引き寄せた。
怯えだけが浮かんだ目に、夢の中のエリカはショックを受ける。
「本当に…、本当に、あたしのこと、覚えてないの…?!」
一瞬の間をおいて、シヅキはうなだれ、視線をそらした。
「…ごめんなさい。あなたが誰か、わからない」
夢の中のエリカが崩れ落ちるのを、エリカは見つめていた。
何度も繰り返すこの記憶が、いつになっても心をえぐっていく。
一命を取り止め、目覚めたシヅキは記憶を失っていた。