59/62
友愛
部屋の隅で、コトリ、と音がした。
息を殺すようにして、隠れていた少女は姿を現す。
「…エリカ」
かすれた声はどこか悲しげで、それでいて空虚に消える。
シヅキは入り口まで歩いていって、床に倒れ伏したエリカの頬を撫でた。
「…」
泥がこびり付いた顔はかすり傷でまみれている。
その憔悴しきった目じりから、こぼれそうになっていた涙をぬぐう。
シヅキはそのまましばらくじっとエリカを見ていたが、不意に立ち上がった。
「ごめん、やっぱり…私は中川シヅキにはなれないや」
「レイナ、早く」
窓の外の茂みから声がする。
「今行く」
シヅキは振り返らず、窓の向こうへと消えていった。