58/62
悪意
「え…あれって…斎藤さん?」
「ウソ、やば…」
ふらつく足で寮へ戻ると、廊下ですれ違った生徒達が目を剥いた。
遠巻きに眺め、そそくさと立ち去っていく。
「なにあの泥まみれの子…」
「しーっ、噂の斎藤さんだよ。目を合わせたら呪われるって…!」
悪意の混じった囁き声に埋もれるように、カシャッ、と小さなシャッター音が聞こえた。
思わずそちらを振り向くと、一人カメラを構えるクラスメイトの姿が映る。
「ごめん…ごめん、ね、斎藤さん…」
霧島アサヒはしきりに謝りながら駆けていった。
「…」
エリカは泥だらけのスカートを掴んだ。
早く熱い湯船につかりたい。
「やば、こっち向いた」
「汚な…なにあれ」
悪意の混じった視線を抜け、やっと部屋にたどり着いた。
暗い部屋に「ただいま」と声をかけてみる。
シヅキがいるはずない。そんなことは、分かっていたのに。
「…」
静寂が耳に痛い。
「…そう、だよね」
そう呟いて、エリカは糸が切れたように意識を失った。