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カッターナイフ
「ねぇアサヒ、理不尽だね」
アサヒの上にのしかかり、土佐はかすれた声で呟く。
「あたしも、幸せになりたい…」
その気になれば押しのけることもできる。
けれどアサヒは動かなかった。
諦めと、痛みが胸を駆け巡る。
エナの側にいると決めたことを後悔はしなかった。
けれど、アサヒを失って崩れてしまったこの幼なじみが、哀れでしかたなかった。
「カナエなんてどうでもいい…」
「ああ…あんな高慢女、消えちゃえばいいのに」
恨みがましくつぶやく土佐をそっと抱き締め、アサヒは震えていた。
土佐の持つカッターナイフが、地面に当たってカタカタと音をたてていた。