取り巻き
「ねぇ、カナエは?」
不機嫌そうな声に振り返ると、高千穂が腰に手を当てて立っている。
そんなの知るわけない、と思いながらも土佐は返事をした。
「探してきます」
探したって、どうせ荷物持ちにしかならないのに。
のろまで巨体のカナエを思い浮かべ、土佐は内心毒づく。
「あーもうめんどくさい…」
やみくもに歩き回っていると、音楽室の前にたどり着く。
朝練中の部室からは、サックスの音色が聞こえてきた。
高千穂と出会ってからは、大好きなサックスを吹く時間も減ってしまった。
朝から晩まで彼女に拘束されて、コンクールのメンバーから外された苦い記憶を思い出す。
「…っ」
ずきん、と心が痛んだ。
逃げるように音楽室を離れ、あてもなく歩き回る。
しかしいつまでたってもカナエを見つけられず、土佐はいらつき始めた。
「どこ行ったのよ…あのデブ…」
辺りを睨むように見渡していると、見覚えのある姿が目に入る。
霧島アサヒ。
一人でいるのは珍しい。土佐は大股に近づいて行った。
「今日は一人なんだ、アサヒ」
「あ…。さっ、ちゃん…」
声をかけると、アサヒは歯切れが悪そうにこちらをあおぎ見る。
そのまま、しばらく無言が続いた。
無言に耐えきれなくなったのか、アサヒが口を開く。
「ぁ…今日は…朝練は…?」
「行ってない」
「そ、そっか…」
アサヒはまだ、びくびくとこちらの様子をうかがっている。
その肩に手をかけると、土佐はアサヒを引き倒した。