二人目
リコの話はこうだった。
最初に校舎の異変に気付いたのは、出張から戻ってきた先生だったらしい。
何かが吊り下げられている―遠くから見たときはそれくらいにしか思わなかったそうだ。
けれど、近づくたびにそれが人の形に見えてきて血の気が引いた、と話していた。
その先生には自分で確認する勇気がなく、足早に職員室に報告に行った、ちょうどその時、二人が落ちたらしい。
二人はいったん人形に引っかかり落ちたおかげで、けがだけで済んだ。
職員室からやってきた先生たちに救助され、手当ても早くできたらしい。
「…ま、あたしらはその時のこと、覚えてないんだけどね、気絶してたっぽいし」
途中でキリノが口をはさんだ。
「それで、」
二人が救助された後、結局確認してみたそれは、ロープで首を吊られた人形だった。
人形の顔は赤黒く塗られ、リアルな苦悶の表情が描かれていたという。
「それのおかげで助かったんだけど…なんか複雑だよね…」
キリノが口を濁す。
「二人が助かってくれたなら、あたしは嬉しいよ」
エリカはまたにじんできた涙をぬぐった。
「ありがとう。けどね…」
またキリノが濁した言葉をリコが引き継ぐ。
「私たち、疑われてるの」
真剣な表情でささやいた。
「人形のロープは屋上から続いていたから…だけど私でも、リノちゃんでもない。他に犯人がいるの」
「私があの時屋上に行ったのは…犯人を確認するためで…」
リコが入り口の扉を気にしながら、だんだん早口になっていく。
「二人目は、屋上なの。今日来てない人がいたでしょ。その人が、多分犠牲者。それで三人目は…」
「ちょっと待ってリコ。話が全然分かんないよ」
エリカが口をはさんだとき、医務室の扉が開いた。
「斉藤さん、落ち着いた?」
「あ…はい、すみませんでした」
入ってきた先生に向かって頭を下げる。本当にさっきまではどうかしていた。
二人が、いなくなったと思っていたから。
今も信じられない。いろんな話を聞いたせいで混乱している。
「二人とも、けがしてるのにあんまり無理して喋っちゃ駄目よ?」
「大丈夫です、あと少しで…」
キリノが言いかけた言葉を先生がきっぱりとさえぎる。
「駄目なのよ、お医者様がお呼びなの。…また今度にしてね」
先生はすぐさま二人の背を押して、連れて行こうとする。
「…リコ!さっきの話、どういうことだったの?」
リコの背中に呼びかけると、リコは困ったような顔をした。
「…また、今度、話すね」
エリカは一人、部屋に取り残された。