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涙
キリノはすでに気が付いていた。
リコがおかしい。
同じ部屋だから昨日の夜もいつものように一緒に夕ご飯を食べる、はずだった。
「今日は…いらない。食欲ないから、もう寝るね」
熱を出してもおなかを壊しても食事を抜くことだけはしない、リコが。
「…ぁ、ああ、そう」
上の空で返事をして、二人分の食事を前に固まる。けれど、いつまでたっても寝息は聞こえない。
その代わり、大きく鼻をすする音が聞こえてきた。
「…リコ?寒いの?」
一瞬の間。
「…寒く、ないよ」
聞こえてきた声はなんだかやけにくぐもっていた。
…そして、今も。
「リノちゃん、ありがとうね」
「…なに、急に」
鼻声で感謝をのべられたけれど、キリノは何もしていない。
明らかにおかしい。昨日の夜ずっと泣いていたのもバレバレだ。
「リコ、シヅキのことは別に、あんたのせいじゃないから」
「うん、分かってるよ」
だったら何が、いったい何がそんなにあんたを悲しませるの。
問いかけてみたかった。なのに言えない。
きっとリコは、困ったように笑うだけだろう。
友達、のはずの距離感がいつもより遠かった。