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約束
「おい、中川の行方を知ってるやつはいないか」
次の日、豊橋先生は開口一番にそう言った。
エリカは頭を殴られたような衝撃を受けて固まった。
一番嫌なことが、現実になりつつある。
「柳の話だと、一昨日から帰っていないそうだ」
豊橋先生は柳さんをにらむように見据えた。視界の端で柳さんが縮こまる。
柳さんは悪くないのに、とエリカは思った。
シヅキはふらっといなくなる癖があったし、それはエリカもちゃんと分かっているつもりだった。
今回だって、すぐに戻ってくると…思っていた。
ただ、どうしても気にかかるのは―シヅキがあの約束を守らなかったこと。
シヅキを失いかけたあの日から一度も、その約束だけは破られたことがなかったのに。
エリカは知らず唇を噛みしめた。ただシヅキが遠出しただけとは思えなかった。
目の前の見慣れない仮設教室の机が涙でにじんでいく。
だから、気付かなかったのかもしれない。
エリカを見つめる彼女の顔から一切の表情が消え失せていたことに。