ホームルーム
「誰だ?!こんな事をやったのは!…怒らないから、出てこい」
アネモネ組の担当教師、豊橋先生は凄むように教卓を叩いた。
急きょ用意された仮設教室の中に、張りつめた空気が漂う。
エリカは顔をうつむけた。
こんな問答で犯人が出てくるはずがない…そう思いながらも、クラスメイトの顔を見るのが、少し怖い気がした。
委員長、小林が立ち上がった。
「誰ですか?やった人は、名乗り出てください。私たちも、迷惑しているんです!」
クラスメイトがざわめくが、それでも犯人は名乗り出ない。
豊橋先生は眉間に深くしわを寄せて、教卓をまた叩いた。
「誰がやったんだ!」
また静まり返った教室で、一人、手を挙げた人物がいた。
全員が一斉に彼女に注目する。
「せんせー、それって絶対アネモネ組の人がやったって事ですかぁ?私たちじゃないって可能性だってあるでしょ?」
井原はそれだけ言うと、すぐに手を下ろした。
エリカはほっと胸をなでおろす。
「確かに、」
豊橋先生は腕を組みながら井原の目をまっすぐに見つめた。
「このクラスの生徒の仕業でない可能性もあるし、俺はそうであってほしいと思っている」
井原は向けられた視線を遮るように、頬杖をついて窓の外を眺め始めた。
「だが、このクラスで起きた事である以上、このクラスの生徒がやった可能性が高い」
豊橋先生は全員に語りかけた。
「やった者は、出てきてほしい。他のクラスの生徒が、この学校に在籍する生徒全員が、疑われる前に」
それでも、名乗り出る者はいなかった。