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猫と生命
相変わらずの遅筆っぷり…(泣
「どうしたの、お嬢ちゃん」
つないだアリサの手が震えていた。
氏家も目の前の光景が信じられずにいた。
目の前の見知らぬ男が抱えているのは…白地に赤い斑点のある…毛の塊。
にへら、と、男が笑った。
「あれ、怖がらせちゃったかな?ごめんね」
男が持った小さなナイフから生暖かい血が滴っていた。
ぽた、と地面を濡らしたそれは、まぎれもなく、猫の、血液。
氏家は目の前が真っ白になった。
気付けば、膝を折って思い切り地面に吐いていた。
涙で歪む視界の中、アリサが男に飛びかかっていくのが見えた…。
「…あの猫の名前、何だったっけ」
布団の中で、一人氏家は呟いた。
精神的なショックで心を病んでしまった氏家は、それ以来あの事件を思い出すのを避けてきた。
今はもう、思い出す事にそれほど苦痛は感じないけれど…。
氏家は静かに携帯を置いた。
あの猫の名前だけが、思い出せない。
あの猫の名前、それだけが思い出せない。