クレヨン
「え、あの赤、血じゃなかったって?」
「嘘、クレヨンの落書き?…にしては、手ぇ込みすぎじゃない?」
「あたし見たけど、本当に血かと思った!」
「え、見たの?写真見せてよ!」
「あの一瞬で、撮れるわけないじゃん」
「だよねー」
布団をかぶって学内SNSを眺めながら、氏家はほっと息をついた。
「血じゃなかったんだ…」
そして、空いたままの下のベッドを見やる。
「アリサ…人殺しなんて、しないよね」
その時氏家はふと昔の出来事を思い出した。
家のそばの空き地に、ある日段ボールが置いてあったのだ。
アリサと二人で覗き込んでみると、そこには生まれたての子猫がいた。
「二人で、育てようよ!」
家で飼うことはできなかったから、二人は代わりばんこに空き地にエサを運んだ。
少ないお小遣いを握り締めて、二人で猫の缶詰を買いに行った。
そんな日が、一か月ほど続いた。
「あれ…いない」
氏家が覗き込んだその日、猫は段ボールの中にいなかった。
慌ててアリサに連絡して、二人で辺りを探し回った。
「どうしよう…いないよ…」
泣き出したアリサを前に途方に暮れていた時、氏家は遠くから猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「…こっち!」
アリサの手を引いて向かった先には…。