キスツス
「それで、何してたの?こんなところで」
エリカは辺りを見回した。
薄暗く、日当たりの悪いそこには他の生徒の姿は見えない。
「…なんとなく」
シヅキはついと目をそらした。視線が地面へと注がれる。
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「嘘だよ」
シヅキは舌打ちをしかけて、やめた。
「そんな事…」
視線を上げたシヅキとエリカの視線が合う。
「シヅキ…。あたしには、隠し事なんてしないで」
必死なエリカをよそに、シヅキはふいとそっぽを向いて黙り込んでしまった。
「心配なんだよ、シヅキの事。…昨日もなんか、変、だったし」
エリカはうつむきながらも続ける。
「呪いとか…シヅキ、信じてないって言ってたのに」
「昨日は急に真剣に話し出すから…びっくりした」
「どうしたの、シヅキ。何があったの?あたしに、話してよ」
「…」
シヅキは地面を見つめたまま、動こうともしなかった。
「…ねぇ、シヅキ!」
「エリカ」
エリカは驚いて体をこわばらせた。
いつも人との接触を好まないシヅキが自分から抱き付いてきたのだ。
「え、…シヅキ?」
「ごめん」
シヅキはそう言っただけで、エリカに顔も見せようとしない。
ため息をついて、エリカはその背中をなでた。
こういう時のシヅキは、いくら急かしても無駄なのだ。
幼馴染のエリカは、それを知っていた。
「…良い事、教えてあげようか」
少しして、シヅキがそう言ってある一点を指差す。
「見て、この花」
「あ、これ…!」
エリカは目を見張った。
今日飾られていた花と同じ花だった。
白い花びらが、そよ風にそよぐ。
シヅキはエリカの耳元でささやいた。
「この花は、キスツス・アルビドゥス」
「花言葉は…、” 私は明日死ぬだろう ”」