計画の目覚め
普段目覚めるよりも三〇分ほど早い時間に椎哉は目を覚ました。
「よしっ」
極めてすっきりした脳は欠伸の一つもさせない。早急に布団から這い出て静かに一枚の紙とバイクのキーを持って部屋の外へと出る。左右を確認しても人の気配はない。
椎哉は足音を極力なくして廊下を駆ける。
ことごとく失敗に終わったこの計画も何度目になるのか、この日は運よくSPにさえ遭遇せずに玄関まで辿り着いた。
おそらくはSPには存在を確認されているだろう。だが、邪魔者はSPではない。SPはあくまでこの家に不法侵入してくる、またはそれに類似したこの家主の敵を排除するのみ。だいたい屋敷に侵入される前に駆除できなければすでにSPの役割は失敗とも言っていい。
つまり、屋敷内の人間がどんな行動をとろうとも家主の命令外に関しては積極的には対応してこないということだ。
この場合の椎哉の邪魔者は同業者、それにさえ見つからなければ計画は始動する。
「ここまで来ればある程度安心だな」
家の玄関を抜けて車庫へと移動。
それでも警戒はしておいたことに越したことはない。
椎哉はバイクを引っ張り出しエンジンは掛けずに押して家から離れる。敷地の関係上乗り物がなければ移動に時間が掛かりすぎてしまうから仕方がない。
バイクのエンジン音の届かない場所まで離れてからバイクに跨って始動させた。ある程度整備の段階で清音の気を遣っているとはいえ、早朝の時間も合わさってやはり音は大きく感じてしまう。
椎哉はすぐにアクセルを全開に回すと急発進に仰け反る体を無理やり耐える。
そして、逃走するかのように椎哉は家から離れていった。