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空しく引きずられる旅行鞄

「はぁー、どうしようこれから」


カンナは旅行でもないのに旅行鞄をガラガラと引きずり途方に暮れながら目的もなく歩いていた。ヘタに駅に行けば早朝とはいえ、知り合いに会わないとも言い切れないし、電車に乗るお金もない。学校は論外、街中も誰がいるかわからない。


「恥を感じてる場合でもないんだけどなぁ」


落ちるところまで落ちなかったことが羞恥心というものを保っている。いっそのこと落ちてしまえば、なりふり構わず唯一事情を話している友達の家に世話になろうと考えたのかもしれない。けど、それは最終手段まだ何かを出来る可能性は残っていると、ありもしない期待にすがっている。それはカンナも分かっていた。


「あれ?」


人間落ちると不思議と頭を垂れてしまうらしい。歩き始めてどれくらいたった頃だろうか、頭を上げた時見知らぬ場所にカンナは辿り着いていた。陸上部としての足の速さゆえか、長い時間下を向きながらぶつぶつと呟いて結構な距離を辿っていたみたいだ。誰かが見ていたらあからさまに怪しかっただろう。


「ふっ」


自嘲気味に鼻で笑いが漏れる。


それにしても、見慣れない街並みは高級住宅が数多く並び……、


「なに、この壁?」


道幅の大きな道路に面して遥か高く聳えたつ壁が延々と続いている。


単なる好奇心。


お年寄りが起きるか起きないかって時間にやることもやるべきことも思い浮かばず、ただその壁の行先をカンナは追ってみたくなった。


迷路でも歩くように右手でその壁をなぞりながら歩いていく。


小鳥がちゅんちゅんと家族で合図でも送るように呼びあい、それに負けじと旅行カバンのガラガラの音を地面に擦りながら音を立てる。高級住宅に住む人間への嫌がらせも交えるが、防音設備ぐらいしているだろうからその嫌がらせもちっちゃなもの。高級車が当たり前のように一家に何台もあり、それぞれが有名な建築家に頼んだであろう家は一件として似ていない。


「こうはいかなくても、うちだって普通の一軒家だったはずなのに」


家を持っているだけでも妬ましいぐらいの家々なのに、家がなくなると想像をはるかに超えてカンナは落ち込ませた。


「はぁー、生きてるだけまだマシか」


誰かが言ったであろう『生きているだけで丸儲け』。


そんな言葉を思い出し、暗くなりかけた雰囲気に早朝まっしぐら大声唱えて走り出す。


「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」


迷惑なんて知ったことじゃない。防音設備をすり抜けてほしい気持ちを持ちながら、今日は金持ちの起きる時間と決めた。ガラガラのローラーが規定の回転速度を超えてバウンドしながら付いてくる。旅行カバンが横に倒れそうになっても部活で鍛えられた腕の力で立て直し止まることを許さない。


「はぁっ、はぁっ」


それにしてもこの壁はどこまで続いているのか、果てしなく長い。


それからも歩き続ける事ようやく、壁の終着を表すアーチを描いた柵が壁よりも少し高く見えた。


おそらくは門であろう見当は付く。しかし、これだけ広く象った敷地に中はどうなっているのか分からない。


「公園?」


門にたどり着く前に速度を落として正体不明の実態がカンナの小さな胸を躍らせる。気持ちは焦るが冷静に楽しみを少しでも長くするために少しずつその距離を縮める。さっきまでうるさかった旅行鞄のガラガラも今では大人しい。


「ん?」


もう少しで壁の中の敷地を覗けるというところで、門の前の道路がさっきまでとは比べ物にならないほど広い。後ろを振り返り来た道をよく見れば辿ってきた道も徐々に広がってきている。


次に門の前の道路に視線を戻した時、今までの高級住宅街がカンナには霞んで見えた。


目の錯覚だと早朝の眼を擦りもう一度見てみると、高級住宅街は道路を中心にまるで殿様が歩く道を家臣が空けるように整列している。


好奇心が一気に膨れ上がって我慢の限界を突破した。


さっきまで視界の端っこにも入れないようにしていた敷地内を一気に振り返る。


「???」


カンナが覗いてみた物は、敷地内に延長される道路。


緊張感にも似た心臓の鼓動が、すぐには理解できない正体に興ざめと落ちついていく。期待の喪失にカンナはため息を吐いて、敷地内に延長される道路を確認した。

門の外に伸びている道路と少し違っていたのは、道路がアスファルトではなくレンガ造り、そしてその周りが芝生と草木で緑に溢れかえっているぐらい。


「やっぱり公園、かな?」


そうカンナは思いつつもレンガの道を辿って目で追いかける。次第に遠くなっていく道もしだいに山なりになっていき、その先は入ってみないと確認が取れなかった。


疑問を抱きながらも閉められた門の中には入るわけにもいかず、門を通り過ぎる。その途中門を挟んでいた柱にテープの切れ端が付いていた。


もしかしたら、この中の正体が貼ってあったかもしれないが確認はできそうにない。これ以上は調べようがないとカンナが諦めて離れようとした時だった。


山なりの向こう側から聴こえてくるバイクのエンジン音がカンナの足を止めた。



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