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僕と君のはじまり

作者: クロワサン

 いつも何かを読んでいる彼女。同じクラスになってから一度も誰かと喋っている姿をみたことがない。

 肩まで伸びた黒髪、すらっとしたスタイル。色白な肌。眼鏡をかけてどこから見ても優等生な彼女はどこか神秘的でお樹様のような雰囲気もある。そのせいか、話しかけてはいけないオーラさえも感じる。

 だが僕は何も考えず、新学期に一度声をかけたことがある。でも下をむき、無視されてしまったこともあり、それから声はかけていない。


「おーい、何してんだよ! 部活行くぞー」

 友人たちの声で僕は教室を出た。

「ああ、今いく」


 すると、彼女も本をしまい、カバンを持ち外に出た。どうやら帰るようだ。だけど、チラッと彼女と目があった気がしたのは僕の思い上がりだろう。


 部活が終わり、駅に向かっていると目の前に彼女がいた。早くに帰ったと思っていたが、どうやらどこかに寄っていたみたいだ。手にはカバンとどこかのお店の袋を持っている。駅に向かっているということは彼女も電車通学ということだろう。


「おい、目の前のってさ、“雪姫”じゃね」

「あの子さー いつも本読んでいるし、誰かと一緒にいるところみたことないんだよねー」

 クラスでは冷たいというイメージがついている。だから“雪姫”

「あー。でも、外出たらめっちゃ遊んでたりしてな」

 友人たちが彼女の話をしだした。僕は軽く話に入るだけで、適当に相槌を打った。それはあり得ないだろう。というか想像できない。

「でも、可愛くね? いいカラダしてるし、エロいかもよ」

 え? いや、確かに可愛いがどちらかというと綺麗系だろ。

「つーか、やめようぜ。そういう話。彼女に悪いだろ」


 適当なことばかり言う友人たちについ、強く言ってしまった。そのせいか、目の前の彼女にも彼女にも聞こえていたらしい。立ち止まったと思ったら、走り出した。


「あーあ、お前が大声出すから。でも、そんなむきになって。もしかして好きなのか?」

「おいおい、“雪姫”とお前じゃ似合わないよー」

 確かにあんなに見た目が綺麗な彼女とじゃ、釣り合わないかもしれないが、ってそんなことはどうでもいい。

 別に、好きとかじゃない……はず。よく分からない。ただ気になる。そんな感じだ。


「それを好きって言うんだろ」

 友人たちはふざけながら僕の話をしながら歩いていく。それにため息をつきながら僕はついていく。


 次の日、また彼女は一人で放課後まで読書をしている。僕もいつも通り部活の準備をする。

 しかし、この日は友人が先に行ってしまったので、すこしゆっくり準備をしていた。すると、僕の机の前に彼女、“雪姫”がたっている。

 凛とした立ち姿はとても綺麗だった。


「えっ」

「……」

 無言。彼女はどこか顔が赤い。そして、僕の机に一枚の紙をおいた。書いてあるのはどうやら、電話番号とメールアドレスのようだ。


「あの、“雪姫”さん? これは……」

 そこでしまったと思った。いきなり、僕たちが勝手につけた呼び名で呼んでしまった。


「その、ごめん。今のは」

「別にいい」

 とても、綺麗な声だった。少し震えていたが、とても透き通る声だった。

「雪姫なんて、私にはもったいない」

 知っていたんだ。そりゃあ周りで言っていたら聞こえるか。でも、突然なぜ声をかけてきたのだろうか。


「昨日、私の話してた」

「いや、その、あれは違うんだ」

「違うの?」


 首をかしげて聞いてくる。なるほど可愛いというのもうなずける。

「いや。違くはないんだけど」

「私のこと好き?」


「えっ!」

 聞かれていたのそこなの? でも、その前の適当な話をしたときに走り出したはずなのに。

「私は好きよ」

「えっ!?」

 突然の告白は僕は唖然とした。なにを言い出すのだろうか、このヒトは。


「いや、嬉しいけど。でも突然どうして」

「理由なんて必要? 好きになるのに理由なんていらない。ってこの本に書いてある」

 言い方はカッコいいのに本のページ示してくる姿はなんだかおかしかった。

 彼女の手にあるのはどうやら恋愛系の小説みたいだ。意外だった。そういう系の本より純文学とか敷居の高い本を読んでいると思った。


「でも、理由ならあるわ」

「あるんだ…… よかったよ。本のセリフ言いたかっただけかと思った」

「前に私に話しかけてくれた。嬉しかった。でも私そういう時、どう返事したらいいのか分からないから考えていたら、もういなくて」

 落ち込みだした。意外と感情が表に出るようだ。知らなかった。


 あれは考え込んでいたのか。気が付かなかった。というか気付ける人はいるのか。

「それから、どうやって声をかけようか毎日考えていたの。それで小説から勉強しようと思って」

「だから本をずっと読んでいたの?」

 うんと頷く。まさかのカミングアウト。新学期始まってから二か月は過ぎている。その間ずっと読んで勉強していたのか。すごいな。そして、若干怖いな。


「でも、声をかけただけで好きって言うのは」

「違うわ。毎日、部活を頑張る姿を見て、お友達と仲良くいる姿を見て、誰にでも優しい姿を見て、私は好きになったの」

「あの、じゃあ昨日帰りに会ったのは……」

「か、帰るタイミングはずらしていたのだけど、近くの書店に用事があるのを思い出してタイミング間違えただけ」

 それ、ストーカーと変わらないんじゃ…… 

 

 でも、こうして話をしているうちにだんだん彼女の顔が赤くなっていくのを見たら、まぁいいかと思えてしまった。それに可愛いし。


「あの、そろそろ私恥ずかしくて、逃げ出したいので返事を……」

 逃げ出したいって、ここまでしている人のセリフではないと思うが。

 

 目の前の“雪姫”は全く冷たいヒトではなく、ただ恥ずかしがり屋なだけだった。本の些細な行動で彼女とできた繋がりを僕は失いたくなかった。

 釣り合えるとか釣り合えないとか、関係ない。

 僕はシャーペンを取りだし、ノートの端に書き手渡した。

「これは……」

「僕の連絡先です。いきなり付き合うって言うのは、なんだか恥ずかしくって。でも、僕も君と仲良くなりたい。よろしくね」

「はい! はい!」

 泣きながら喜んでいる。きっと不安だったのだろう。

 突然、彼女は突然走り去ってしまった。僕も部活に急ごう。遅刻だ。

 教室を出ようとしたら、彼女が戻ってきていた。


「そういえば、あの時の返事を忘れていた」

 

 新学期、僕はクラスみんなに声をかけていた。その時と同じように僕は手を差し出した。

「こんにちは、僕の名前は……です。君は?」


「私の名前は……です。これからよろしく」

 彼女の笑顔はとても暖かく、きれいだった。

 

 僕らは握手を交わした。

 こうして、僕らは友達から始めることにした。

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