本当の恐怖
色々なテレビ番組やサイトでよく怪談話や、心霊体験を話している人がよくいるね。
僕もこの季節にぴったりな体験をしたのを思い出したんだ。
ここに書き記そう。
夏の風物詩と言えば心霊や幽霊。
テレビでは心霊特番やホラー映画を放映したり、怖い話などが人々の間で流行る。
でも、たとえそれが本当の話であっても、僕は心から怖いと思った事はないんだ。
そのような番組をテレビやDVDで観ていたらよくキャーキャー叫んだり、今にも泣きだしそうになる女の人がいるけど、僕はそんな事は絶対にない。
「うわっ」と多少びっくりする事はあるけど、あくまでもびっくりするだけ。
もしかしたら世間は心霊に対する恐怖をその様なものだと勘違いしているのかもしれない。
そうではない。本当の恐怖はそうではない。
僕が何故、今ここで恐怖に対する考えを書いているのかというと、本当の恐怖と呼ぶのに相応しい体験をしたからだ。
僕が体験した中でもこれ以上に身の毛もよだつ体験はした事ない。
本当の恐怖を理解した瞬間なんだ。
皆さんにも知ってほしいから、今ここで話す。
僕は小説を書いているんだ。想像して、それを文章に表すのがとても好きなんだ。
自信作と呼べるものはほとんどないけどね。
もちろん本も好きだよ。
日頃から色々な小説を読んだりしている。好みのジャンルや著者は特にいないんだけれど、とにかく本が好きで、夏目漱石のような昔の作家の小説を読んだり最近出版された新しい小説にも手をつけている。
ある夏の日。
何をきっかけにしたのか、僕は書けなくなってしまった。
想像する事はできるけど文章に表せない。いわゆるスランプ状態ってやつだ。
夏バテのせいもあってか。僕はすっかり元気をなくしてしまった。
そんな僕を見据えた友人が、僕をキャンプに誘ったんだ。
「今度キャンプに行かないか。」
小学生ぐらいの少年が手を引っ張って遊びに誘う様にね。
僕は一瞬迷った。だけど、今この絶不調の時期には良い刺激になるんじゃないか。そう思った僕は友人に「オーケー」と返事をした。
それから三日後、早々と準備が進められ、僕と友人を合わせて四人で行く事になった。
場所は住んでいる所から少し離れたキャンプ場だ。湖があり、森があって、とても自然豊かな所だった。
暑い中テントを立てるのは大変だったが、力持ちの友人がいたから僕はそれほど苦労はしなかったね。
お昼は友人達と手分けして買ってきた肉や野菜でバーベキューをしたんだ。
そして釣りをしたり、カブトムシやクワガタを捕ったりして遊んだりしてた。
夜には焚き火を囲んで恋愛話をしたり、僕が書いている小説についての話をしたりしたんだ。
少年の遊び心を思い出させてくれたとても楽しい日々だった。
僕自身も、どこからか元気が出て来たんだよ。
僕は、こんな友人を持てて良かったと思ったんだ。
それで、問題はその後なんだ。
焚き火をした後、僕たちは近くの温泉へ行き、ひとっ風呂浴びて来た。
夜の十時を過ぎており、僕たちは疲れていたので、寝床用に立てた大き目のテントで寝る事にしたんだ。
夏なんだけど夜は太陽が沈んでいるからそれほど暑くはなかったんだ。だから皆ぐっすり眠っていたよ。僕も含めてね。
少し眠って時間は真夜中。
僕はトイレに行きたくなって起きた。
少し寝ぼけながらも、僕はテントを出てトイレへと向かった。
そこらへんでしようかとも思ったけど、自分以外の人達もこのキャンプ場を利用するので、それは良くないなと思ったんだ。だから結局トイレへと向かった。
トイレは森の中を少し歩いた先にある。
僕はたまたま持って来ていた小型の懐中電灯を手に持ち、真夜中の森へと進んだ。
真夜中の森は本当に不気味だね。空は真っ暗で、月に黒い雲がかかっていて、とても静かだった。懐中電灯で道を照らしていたから進めたけど、それがなかったら間違いなく、トイレまでにはたどり着けなかっただろうね。
そのまま歩いていたら、なんだか視線を感じたんだ。上からだった。
上を見上げると、いたのは烏だったんだ。
数匹の烏が木の枝に止まっていたんだよ。
その烏達は妙な事に、鳴かないんだよ。木の枝に止まりながら僕の事をじっと見つめていたんだ。
気味が悪いので僕はそのまま急ぎ足でトイレへと向かった。
少しもしない内に目的のトイレは見えて、僕はそそくさと中に入った。
そのトイレもボロボロでね、公衆トイレなんだけど全体的に黒ずんでいて窓もいくつか割れたままで、個室トイレの扉もいくつか外れているんだよ。
それに不気味でね、明るい時間帯にも行ったんだけど、なんというか、押し潰されそうな空気で、すぐにその場を離れたいって思ったね。
夜になるともっと不気味なもんだから、僕はとにかく用を足して早くテントに入って寝るという事だけを考えていた。
正直言って僕は怖いのが平気なんだけど、そこのトイレだけ、何か出てきそうだなっと思ったんだよ。そういう空気というか雰囲気だね。
そして用を足して急いで出ようと思った瞬間、何か聞こえたんだ。
よく聞き取れなかったから、僕は耳を澄ませた。
そしたらはっきり聞こえたんだ。
「ヒ ト デ ナ シ 」
ぞっとした。
小さい少女の様な声だった。その声には生気がなく、かすれ声にも感じた。
一番奥にある個室トイレからだった。
もちろんここは男子トイレ。女の子がいるはずがない。
それに今は丑三つ時、まず小さい子供がいるはずがないのだ。
「誰かいるのかい?」
声を振り絞って問いかけてみたが返事はない。
僕はもう一度問う事にした。
「おうい、誰かいるのかい?」
返事はなかった。
テントへ戻りたかったが、僕は中を確認してみる事にした。
まさか幽霊ではあるまい。
自分にそう言い聞かせて、僕は汗ばんだ手で懐中電灯を握りしめた。
ゆっくりとその扉に近づいた。鍵はかかってないんだ。
そしてドアノブに手をかけた。
その扉を開けると、ギーっという不快な音がした。
それで中を見た途端、背筋が凍った様になった。
壁には血がべったりとついて、地面は血で真赤になっていた。
そして、小さい少女がその真赤な地面に横たわっており、僕を睨んでいたんだ。
絶叫した。
僕は扉を開けたまま一目散に出口へ突っ走った。
そしてトイレを出た途端、自分の目を疑った。
何百というおびただしい数の烏が木に止まっていた。
その烏達は一匹も鳴かず、僕の事をじっと見ていた。
そのせいで夜の闇は一層と濃くなり、僕を逃がすまいとしている様だった。
月の光は届かず、懐中電灯の光も闇に包まれた。
頭がおかしくなりそうだったが、僕は来た方向を思い出して、そこを全力で走った。
とにかく無我夢中で走った。
どれくらい走っていたかわからなかった。
なんとかテントまで辿り着けた僕は、烏がいないのを確認して息を整えた。
「なんなんだよ」とちょっとした怒りを感じながらね。
しばらくして落ち着いた僕は、椅子に座ってそのまま眠ってしまった。
起きると、外は少し明るくなっていた。
スマートフォンで時間を確認すると、朝の5時半だった。
僕は立ち上がって湖の近くへ行って、体を伸ばした。
しばらくボンヤリしてると、友人がぞくぞくと起きて来た。
一番早く起きた僕が珍しかったのか、友人達は少し驚いたような顔をした。
そして朝食を食べている時、僕は夜中に起きた出来事を全て話した。
夜中に起きてトイレに行った事、トイレにいた女の子の事、鳴かない烏の事、最初から最後まで全てありのままに話した。
だけど友人達は、
「そんな事あるわけないだろ」
「変な夢でも見てたんじゃないか?」
「疲れているんじゃないか?」
と、笑いながら聞き、僕の話を信じようとはしなかった。
僕は思わずため息をついたよ。
朝食を食べた後、僕は湖のほとりで座っていたんだ。
特に考えていたわけでもなく、しばらく呆けていた。
そしたら僕の隣に誰かが歩み寄って来た。
このキャンプ場の管理人のおじさんだった。
おじさんは僕の隣に座り込み、おもむろに話をしてきた。
「トイレの、女の子ですか?」
僕はドキッとした。
話によると、数年前の出来事だという。
昔、ここにある家族が泊まりに来ていた。
その家族は、父、母、そして女の子がいる、至って普通な三人家族だったらしい。
事件はその日の夜中に起きた。
三十代後半の男がテントの中でその家族の父と母をナイフで殺害した。
女の子はトイレに行っていたが、ちょうどその現場を目撃し、男と鉢合せになったという。
男はその女の子を捕まえ、トイレに連れ込んだ。
そしてわいせつな行為をした挙句にナイフで何度も刺して殺した。
その時、少女は息絶える瞬間に、
「人でなし」
と言ったらしい。
聞いただけでも忌々しい事件だった。
そしてその少女の怨念が、今でもこのキャンプ場に彷徨っているというのだ。
この事から僕が見たのはその子の幽霊だったのだ。
おじさんの話を一通り聞いて後に、僕はトイレの近くの木に止まっていた鳴かない烏について聞いてみた。
その烏は、トイレから出て来た男を何百もの大群で襲った烏だろうとおじさんは言った。
男は死にはしなかったが、両目を潰され、そのまま行方不明になったという。
烏が鳴かない理由は分からないらしい。
僕はおじさんの話を真剣に聞いた。
その事件がこのキャンプ場であったというのは驚いたが、何より思った事はその事件の被害者である女の子がかわいそうだという事だ。
きっと誰にも気づいてもらえずに、ずっとここを彷徨っていたのだろう。
後日、友人達と共に帰る前に、僕はもう一度そこのトイレを訪れたんだ。話を聞いた後でも、やっぱり怖いから中には入れなかったけどね。
友人には変な目で見られたけど気にしなかった。
僕は一輪の花と、余ったりんごを一つお供えして、手を合わせた。
これで少しだけでも女の子の心が安らぎますように。とね。
そして僕は友人とともにこのキャンプ場を去った。
僕の体験談はここまでだね。
あの女の子を見た時は、最初は死体かと思ったんだ。
でもおじさんの話を聞いた限りでは僕は幽霊を見たという事になる。
僕は霊感とかは全くないんだけど、何故かあの時ははっきり見えた。
あの女の子を見てから霊感が強くなったというわけでもないし、霊的な現象も起きてないし、直接見てもいない。
でも感じた事は、明らかに恐怖を感じていたという事だね。
大袈裟にいえば、「逃げなければしぬ」という恐怖だ。
この恐怖は客観的に見れば体験できないと思う。
つまり、心霊に対する恐怖は主観的に体験しないとわからないと思うんだ。
こうやって自分の中で結論付けたのも、この体験をした後に、テレビの心霊番組を見たからなんだよね。
皆さんも一度そういう体験をしたらわかるだろう。
本当の恐怖と確信した僕の体験談、そして僕が考えた先にたどり着いた結論を聞いてくれてありがとう。
ではまたどこかで。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「本当の恐怖は何か」という事を、実体験を元にまとめた作品ですが、この体験談を信じるのはあなた次第です。
ちなみに作品を書いて投稿したのはこれが初になります。
まだまだ初心者ですが、これからも執筆活動を続けて多くの人を楽しませていきたいです。