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天才小説家と恋人

作者: 三都花実

 ばたばた!!がったーん!と派手な音がしてドアを開ける。開けたのは家主の男だ。男は大層美形である。部屋の奥からぱたぱたと女が出てくる。


「ハルくん?帰ってきたの?」


 部屋の奥から出てきたのは可愛らしい女だ。ハルくんと呼ばれた男は一瞬顔を緩ませる。だがすぐに顔を引き締める。


「ふふふふうか。」


 男はとても慌てた風に女の名前を呼ぶ。ちなみに女の名前はふふふふうかという名前ではない。当たり前だが。


「あ、あのね。ハルくん、今ー...」

楓花(ふうか)。逃げよう。」


 女、菅楓花(すがふうか)が言いかけた言葉を遮り、男、天満治(てんまんはる)は楓花の手を握り、そう伝える。


「どういうこと?」


 楓花は首を傾げる。そんな様子も楓花は可愛いと治は悶える。治は楓花にぞっこんなのだ。7年以上付き合った今でも。彼女の全てが愛しい。いつだって可愛がりたい。だが、そんな暇は今の治にはなかった。


「大変なんだ!魔王がやってくるんだよ!!その前に逃げなきゃ。」


 治は切羽詰まったように言う。


「へえ。先生。随分お元気そうじゃあないですか。心配して損しました。」


 部屋の奥から一人の男が出てきた。その男を見て治は固まる。楓花は苦笑いし、口パクでごめんね。と治に伝える。


「菅さん。」


 治は絶望したように言う。男の名前は菅龍臣(すがたつおみ)。治が今超絶会いたくない人物だ。龍臣は笑みを浮かべている。治からしたら獲物を見つけた肉食獣が浮かべるような凶悪な笑みだ。


「先生。さ、そんなに元気なら原稿の続きも書けますよね?締め切り明日ですよ。」


 龍臣の言葉に治はがくり、と項垂れる。楓花はそんな治を心配したのか治を抱きしめる。


「治くん。頑張ってね。私、治くんの仕事終わるの待ってるからね。」


 楓花に励まされて治は幾分か元気を取り戻す。励ます楓花は可愛くて可愛くて仕方がなかった。治は思わず顔を楓花の顔に近づけて、キスをしようとする。


「あー。ごほんっ。ごほん。」


 治の行為を龍臣の咳払いが邪魔をする。治は龍臣を睨む。


「菅さん。邪魔しないでくれませんか。」

「先生。妹のラブシーンなんてできれば見たくないです。まあ、妹は可愛いので先生の気持ちもわからなくはないですが。」


 龍臣は呆れたように言う。そう。楓花は龍臣の妹なのだ。先程から先生と言っているが、治の職業は小説家である。治は17歳の時、デビュー作で有名な賞をとってからというもの天才小説家として名を馳せてきた。その治の担当編集が龍臣だ。


「わかったよ!書けば楓花と好きなだけいちゃいちゃしていいんだろ。このシスコン!いつも楓花との時間邪魔しやがって。」


 治は荒れ狂い、そう言って仕事部屋に向かう。楓花はうっとりとその後ろ姿を見つめる。


「はあ。怒ってる治くんも素敵。」

「お前ら二人は本当手に負えないな。」


 龍臣は呆れたように言う。


「お兄ちゃん。だって治くんて本当に格好良い。」


 楓花は顔を真っ赤にして言う。


「お前ら見てると世界って平和だなって思うよ、お兄ちゃんは。」

「平和が一番!でしょ。」


 楓花はとんちんかんなことを言う。龍臣はふと以前のことを思い出した。龍臣が出張で1月留守にしていた間に妹が恋人と同棲までしていて、手に負えなさが増していた。このカップルは、二人が二人ともお互いにぞっこんすぎるのだ。







「はい。確かに受け取りました。ありがとうございます。じゃあ俺はこのへんで。あ、そうだ。先生。次の話考えといてくださいね。あとあんまり溺れないようにね。」


 龍臣は原稿を受け取り、そう言って家を後にするのだった。治は楓花を抱きしめる。


「やっと終わった。長かった。」


 楓花は抱きしめ返す。治は楓花のくちびるにキスをする。


「今回は中々煮詰まってたね。なにかあった?」


 楓花は治を見つめながら聞く。治は楓花を強く抱きしめる。


「楓花。そんなの、決まってる。君がいなかったからだよ。楓花がいないと筆も進まない。僕の女神。さみしかったんだ。」

「ごめんね。急に仕事入っちゃって。珍しいんだけど。でも、私も会いたかったよ。治くん。」

「君がいないとだめなんだ。君しかいらない。君しか見れない。君だけだ。僕の楓花。」


 治はゆっくりとその場に楓花を押し倒し、再びキスをしようとするが、楓花の手がそれを止めた。


「ちょっと待って。治くん。今日第何何曜日?」

「え?ええと、確か第2土曜日だっけ?」


 治は楓花の問いに戸惑いながら答える。楓花はそれを聞くと治の体を押し返す。


「なんかあったのか?」

「治くん。今日治くんの実家に帰る日だよ。準備して。お土産も買いに行かなきゃいけないし。」


 楓花は慌てたように言う。二人が同棲を始めたのは大学時代だ。二人の親はルールを決めた。第2土曜は治の実家、第4土曜は楓花の実家に帰省すること。どちらの実家もこの家からはそれほど離れていない。二駅くらいだ。そのルールは大学を卒業してからも続けていた。大学を卒業してからは二人一緒にそれぞれの実家に行くようにしているのだ。というか、むしろ治は無視したいのだが、楓花は真面目なので無視できないのだ。


「今日くらいはいいだろ。実家には俺から言っておくよ。」


 治はそう言って再び、楓花を抱きしめる。楓花は軽く治を睨む。


「治くん。欲に負けちゃ駄目よ。そもそもいつも流されちゃうけど昼間からというか、ほとんど朝から治くんといちゃいちゃするのは不健康でしょ。」

「さっきはキスされてうっとりしてたくせに。」

「治くん?」


 楓花は凄みのある声で治を呼ぶ。


「わかったよ。準備するよ。」

「流石治くん、大好き。」


 楓花は抱きしめて、囁き、準備のためにどこかに行く。残された治は顔が真っ赤だった。


「馬鹿楓花。俺も大好きだ。」


 そう呟くのだった。



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