第三話 友人
いらっしゃいませお客さま。
私はこの叶屋のオーナーを任されております鼎 莅と申します。
本日は何の御用でしょうか?
ここは人の望みを叶える店ですから貴方の望みを叶えますよ?
それ相応の対価さえお支払いになられればね・・。
さて本日もお客さまがこられませんご様子なので少し昔話をいたしましょう。
私がここを任されてあまり経っていない頃の話でございますよ。かれこれ百年近く前ですね。
彼――壱野葉 懸〈いちのは かける〉様がいらしたのは。
懸様はまだ小学生ぐらいのお子さまでそれはそれは元気な御方でした。
あぁ話がそれてしまいましたね。
懸様の願いは夏休みの宿題を助けてほしいという今も子供たちによくある願いでしたよ。
えぇ。お助けいたしました。
色々と話してくださる懸様のお話は楽しかったですよ?
学校の話や家族の話、友人方の話もありましたね?
えぇ二日で終わらせましたよ。
懸様は大変お助かりになられたようで笑顔でお帰りになられました。
役に立てて光栄でしたよ。私は。
その後も懸様はよくこられましたよ。
懐かれたと申されますかね?
いえいえ迷惑などと思いませんでした。
懸様の話は楽しかったですからね。
主人もよく話をお聞きに姿をお見せいたしましたよ。
懸様はやさしい御方でしたからね。
しかしある日を境に懸様はおいでになられることはありませんでした。
引っ越したのだそうですよ?
別れを言えなかったのが心残りでしたね。
しかし懸様のことはお忘れにはなりませんよ。
唯一この店の友人ですからね。
そうそう懸様のお支払いになった対価はお話でしたよ。
主人が大変お気に召したようでしたので。
また長話しをしてしまいましたね。
気晴らしになられましたか?
え?私と主人は一体何者ですかって?
いえいえ私どもはただの叶屋。
それ以外の何者でもございませんよ。
では足元をお気を付けてお帰りください。
またのご来店お待ちしております。