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「そーゆーわけで、こうやっておやっさんに頼んでるわけよ。ね、バイクの盗難事件について調べてくんないかな?」
その日の空き時間、春一は早速おやっさんこと藤に電話をかけた。彼としては、藤にバイクの盗難事件の件数と概要を調べてもらおうという魂胆だ。
『春一、言っとくが俺は便利屋じゃねぇぞ』
「知ってるよ?刑事だよね。あれ?ひょっとしてクビになった?」
『馬鹿言ってると切るぞこの野郎!』
「おやっさんさ、恩返しって言葉知ってる?俺もね、あんまり貸し借りとかのセコイ話はしたくないんだよ。でもさ、仮にもおやっさんは俺らに借りがあるでしょ?それをそのままにしとくってのは、男が廃るんじゃないかなぁ?それはどうなのよ?人間には筋ってもんも情ってもんもあるでしょうが」
春一が言っているのは、もちろん藤に頼まれて先日解決した殺人犯の事件のことである。その話を持ち出すと、藤が電話の向こうで震えているのがわかった。言い返そうにも春一の言っていることが正鵠なため何も言えず歯軋りしている姿が目に浮かぶ。
『わかったよ!やってやるよ!』
「さっすがおやっさん。カックイ~」
結局いつもの通り折れた藤に、春一は明るい声で対応する。
「じゃあ、今日の夜に俺んち届けてね」
ハートマークがつきそうな口調で春一が言うと、藤は電話機が割れそうなくらいの声で「はぁ!?」と言った。
『何で俺がわざわざ!?』
「だって俺マッポ署嫌いだし。それに、やらなきゃいけない課題が山積みでさ。ってわけで、よろしくー」
藤がまだ電話の向こうで何かをやいのやいの言っているのを無視して、春一は電話を切った。
その日の夜、春一が夕飯を食べている時に藤がやってきた。顔を歪め、不機嫌を全面に出している藤とは対照的に、春一は至って笑顔である。
「おやっさんサンキュー」
「何が『課題が山積み』だよ。メシ食ってんじゃねぇか」
「あのねおやっさん、人間にはメシを食う生理的時間が必要なんだよ。なぜなら、メシを食わなけりゃ人は死ぬ」
「お前の理屈はどうでもいいが、これが事件に関する書類だ。俺が必死にまとめてやったんだ。ありがたく読めよ」
「おやっさんの必死がどのくらいのレベルの書類を作れるのかは甚だ疑問だけど、ありがたく受け取るよ」
「じゃあな!」
藤は四季家のドアをバタンと思い切り閉めて、そこから立ち去った。春一はそんな藤の行動にも何一つ動じず、彼からもらった書類を手にリビングへと戻った。
「藤さんですか?」
キッチンでは夏輝が食事の続きを取っている。春一は彼の対面に座って、書類を捲りながらカレーライスを口に運んだ。
「そう。これ、今起きてるバイクの盗難事件の資料なんだけどさ、どうにもバイクだけじゃねぇみてーだな。見ろよ、これ。車も盗んでやがる」
春一が盗難品名の欄を夏輝に見せる。そこには、バイクの名前と一緒に車の名前も書かれていた。
「シルビアにアリスト、プレジにキャデ…。きっとこれチューニングカーだろうな。片っ端からパクってやがる」
「しかし、何のために?」
「バイクはそのまま族なんかに流せるし、チューニングカーはバラしてパーツ売れば金になる。だからだろーよ」
「ですが、ナンバーは?」
「そこなんだよなー…。問題は。…何かひっかかるんだよな。何かを見過ごしてる。何かを忘れてる。…ダメだな。最近昨日の晩メシも思い出せねーや」
「まだ若いんですから。昨日は天丼を食べたじゃないですか。ハルが食べたいからと言って、わざわざ食材を買ってきて」
「ああーそうだったそうだった。すっかり忘れてた」
大して気にしていないように笑う春一にため息をついて、夏輝は自分の食器を片づけた。もう一度春一を見ると、彼は視線を宙に浮かべたまま固まっている。
「ハル?どうしました?」
「夏、ナイス」
「…?何がですか?」
「後は盗賊団をブッチめりゃ、終わりだぜ」
自信満々の笑みを浮かべる春一に、夏輝はまたため息をついた。一言多いのか、少ないのか。どうにもわからない人である。




