3-5
次の日の午後一時に、春一は美海の住むアパートに着いた。彼女は車を所有しておらず、駐車場が空いていたのでそこにFCを停めることにした。
チャイムを押して少し待つと、美海がドアを開けた。昨日のライダージャケットとは違い、ラフな室内着だ。
「こんにちは、美海さん。はい、これ」
春一は小さい箱を彼女に差し出した。ケーキの箱だ。
「ありがとう。わ、これ南町の有名なケーキ屋さんのだよね。高かったでしょ?」
「んなことないよ。女性を訪問するのに手土産一つ持ってこないのは紳士じゃないでしょ?花束でもよかったんだけど、それだとさすがに引かれそうだから」
春一が笑いながら言うと、美海も笑ってケーキの箱を受け取った。春一は靴を脱いで美海の部屋に上がった。上がると左手にトイレがあり、右手はキッチン。トイレの奥に洗面所とバスルーム。一番奥が部屋になっている。そこにはベッドと小さいテーブルがあった。春一はキョロキョロと部屋を見回した。
「狭い所だけど、座って」
「ありがとう」
春一はテーブルの近くに座った。首だけ動かして辺りを見る。
「昨日もあったの?その、笑い声」
春一がキッチンに立つ美海に聞くと、彼女は頷いた。その表情はひどく沈痛で、思い悩んでいるようだった。彼女は二杯の紅茶を作ると、テーブルまでそれを持ってきた。
「いただきます」
春一は紅茶に幾度か息を吹きかけてから一口それを啜った。
「春一君、どう?解決できそう?」
美海が心配そうに春一の顔を覗き込む。彼はカップを置いて、自信満々に笑った。
「当たり前じゃん。この紅茶を飲んだら、早速解決するつもりだよ」
「え!本当?もう解決、できるの?」
目を丸くして驚く美海に、春一は満面の笑みで答えた。
「できる。それには道具がいるんだ。だから、飲んじゃったらその道具を車から持ってこようと思って」
それから二人は雑談をしながら紅茶を飲んだ。その中身が残り四分の一ほどになると、春一はそれを一気にぐいっと飲み干して立ち上がった。
「じゃ、ちょっと車行ってくるね」
鍵を持って立ち去る春一。美海が玄関から春一を目で追うと、彼は階段を下りてFCの鍵を開けた。そして後部座席から何かを取り出す。
「……え?」
その道具を見た美海は、一瞬固まった。それがあまりにも見慣れたもので、そしてあまりにもこの場に不似合いだったからだ。
「お待たせー」
春一は階段を走って上がり、美海の前に戻ってきた。彼の右手に握られているものは―
「虫取り網?」
「ちゃんと虫かごもあるよ」
美海は彼に頼んで大丈夫なのか、少し心配になってきた。




