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「ただいまー」
「おかりなさい。遅かったですね」
「帰りにプチツーしてきた。そしたらバイクがトラブっててさ。ただのガス欠だったからよかったけど。ガソリンあげて帰ってきた」
「そうでしたか」
夏輝がキッチンの中に入って夕飯を皿に取り分ける。今日の夕飯はサラダとミートパイだ。
「いただきまーす」
春一と夏輝は古来からの日本の風習に則って手を合わせてから食事を開始した。夏輝は特に手を合わせる習慣がなかったのだが、春一が「手を合わせていただきますと言うのは食材と、食材をとった人、そして料理を作ってくれた人に対する感謝の念を表すための動作だ。だから俺はその動作を大切にする」と言ったのを聞いて、考えを改めた。春一はそういう礼儀には厳しい。
「うめぇな、これ」
「食べながらしゃべるのは行儀が悪いですよ」
だが、こういう所は気にしない。礼儀正しく行儀が悪いのが春一だ。
「ふぃ~食った食った。さて、テレビテレビ」
春一は普段テレビでバラエティ番組などは見ない。基本的に、テレビは見ない人間なのだ。そんな彼が夜にテレビをつけるということは、野球中継を見るということだ。
「おっしゃ!勝ってる!」
途中からの観戦だが、春一贔屓のチームは既に点を入れているらしい。これで勝てばいいのだが、負けると彼の機嫌は下降の一途をたどる。彼もスポーツマンらしく、最後の最後まで勝ちは諦めないが、いざ決着がついたときの機嫌の豹変ぶりと言ったら、迷惑なことこの上ない。
「っしゃー!ライト前ヒットォ!」
春一はテレビの前でガッツポーズを決めて、手を叩いた。彼くらい熱中してくれるファンがいると、プロもプレーのしがいがあるというものだろう。
「よしよし、ノーアウト一塁二塁!チャンスだぞ!」
最初は騒がしいと思っていた夏輝だが、春一と共同生活を何年も営むうちに慣れてしまった。耐性ができた、と言うべきか。
「うおおー!センターオーバー!回れ回れー!っしゃ!走者一掃のツーベース!」
いや、やはり、騒がしい。
ピンポーン
夏輝が心の内で密かにため息をついていたら、チャイムが鳴った。こんな時間に来客とは、一体誰だろうか。彼が玄関へと出向き、ドアを開けると、そこには小柄な女性が一人で立っていた。
「夜分にすみません。お店が閉まってたのでこっちに来ちゃいました……」
彼女は突然現れた大男に驚いていたようだが、すぐに頭を下げて理由を説明した。
「あの、妖怪に関係する悩みを聞いてくれるんですよね?」
心配そうに夏輝を見遣る彼女に、彼はニコリと微笑んで、頷いた。
「ええ。承っております。立ち話もなんですから、お入りください」
「あ、じゃあ、お邪魔します……」
彼女はブーツを脱いで、四季家の中へと入った。リビングへのドアを開けると、春一がこちらを見た。
「あ!」
「あ……。どーも」
「お知り合いで?」
世界は狭いものだ、と春一は感じだ。先程助けた女性ライダーが、まさか依頼主になるとは、と。




