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春一はドラッグスターを路肩に停め、ハザードを出して、エンジンを切った。
「何かトラブルですか?」
春一が話しかけると、SRの持ち主はフルフェイスヘルメットのシールドを上げて、春一を見た。前髪が右に流れていて目は大きく、睫毛は長く伸びている。つまり、女性である。
「あ、はい。実はいきなりエンジン停まっちゃって……」
春一は持ち主が女性であることに少し面喰っていたが、だがバイクに乗る女性は多いし、そんな中でもSR系は女性に人気がある。すぐに各部の点検を始めた。
「急にですか?何の前触れもなく?」
「えっと、何回か減速して、それでついにエンジン停まっちゃって……」
「ってことは……まさか……」
春一は自分の携帯電話を取り出して、ライトを点けた。そして車体から鍵を抜いて、それでタンクを開けた。中を覗き込むと、見事に空だった。
「ガス欠ですね」
「ええっ!」
女性もタンクの中を覗き込む。
「あぁ~……」
しまった、と言わんばかりに女性は頭を抱えた。春一はタンクのフタを閉めて、車体の左側に屈みこんだ。
「げっ!リザーブになってる!」
「えっ?」
女性も春一のライトが照らす方を見る。そこにはコックがあったが、それが上を向いている。
「これ、本当は下向いてなきゃいけないんです。下向いてたら、リザーブって言って予備の燃料が使えるんですけど、上を向いてるからもうリザーブの燃料も使っちゃってる……」
「すみません、私初心者で。乗り始めたばっかりなんです。つまり、もう空ってことですか?」
「はい。これ以上は走りません」
「ええ!どうしよう……」
「ちょっと待っててください」
春一は自らのバイクの所へと戻った。サイドバッグを開け、中から目的のものを取り出す。
「これ、ガソリンです。こないだのツーリングに行ったときたまたま持ってった携行缶があってよかった。全部で500ccありますから、十キロ以上は走ると思いますよ。ここから五キロくらい先にガソリンスタンドがありますから、そこまでは持ちます」
春一が水筒のような携行缶を差し出すと、女性はありがたそうにそれを受け取った。
「ありがとうございます!良かったぁ……」
彼女はガソリンを入れると、缶を春一に返して重ね重ね礼を言った。
「いいんですよ。コックを下にしておくの、忘れないでくださいね。じゃ、俺はこれで」
春一はSRのキックスターターを蹴って、エンジンが無事にかかったことを確認して自分のバイクの元へ戻った。ただのガス欠で良かったと思いながら、家への道を走る。




