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十二月に入った。間もなく冬休みに突入する北神大学では、学生達が来るテストに向けて勉強を開始していた。
春一達も例外ではなく、三人は大学の図書館で勉強をしていた。いつもなら四季家で行われる勉強会だが、今は寒く、四季家への道のりですら辿るのが億劫になるため、暖かく距離も近い大学の図書館で勉強をしている次第である。参考文献がほしければすぐ探しに行けるという利点もある。
「俺そろそろ帰るワ。今日兄貴帰ってくるんだヨ」
丈が机の上を片付けながら言うと、春一と琉妃香はそのまま固まった。
「お前の兄ちゃん、女と駆け落ちしたんじゃなかったっけ?」
春一が立ち上がる丈に聞くと、彼は呆れたようにため息をついた。
「それがヨ、あの後うまくいかなくなったみてーで、別れたんだとヨ。今まで東京にいたんだけど、今日こっちに帰ってくるっていうから、俺駅まで迎えに行かなきゃいけねーんダ。ってわけで、また明日ナ」
手を上げて急いで帰ってしまった丈を傍目に、春一と琉妃香は目を見合わせて小声で囁き合った。
「あの兄貴、ホンットドタバタしてるよな」
「っていうか女と駆け落ちしたの何度目だっけ?」
「確か四度目」
「丈も大変だねー」
場所が図書館だけに、二人はそれ以上喋るのをやめて勉強に打ち込んだ。
「さて、あたしも帰ろっかな。もう暗くなったし」
「おう、じゃあ俺も帰るかな」
二人は席を立って、駐輪場へと足を向けた。吹き付ける風は刺々しく、肌を攻撃する。駐輪場に着くまでに凍えてしまいそうだ。
「さっみー。おう、琉妃香気を付けてな」
「サンキュー、ハル。ハルも捕まんなよ」
「うまく逃げるに決まってんだろ」
琉妃香が愛車のスティードを出すのを見届けて、春一もドラッグスターに跨った。エンジンをかけると、冷えているせいで反応が悪い。しばらく暖機をして、発進する。
(ああーさっみー。本当今年は寒いな。……けど、今日はちょっと走りたい気分だな。少し遠回りするか)
春一はいつものルートを外れて、プチツーリングをしていくことにした。風は痛いし手の感覚はなくなってくるが、それでも走るのは楽しい。特に、多量の勉強をこなした後の重くなった頭をリセットするには持って来いだ。
(さみぃぃぃぃ!夏に何の連絡もしてないし、そろそろ帰るか)
五十キロほど走ったところで、春一は家に向かうことにした。あまり遅れると夏輝にどやされる。
人通りの少ない道路を走っていると、路肩に停まっているバイクが見えた。春一の脳はそれがヤマハのSR400であることを認識した。持ち主は車体の周りを見ながら、ヘルメットの上から頭を押さえている。どうやらトラブルらしい。
(困ってる人は、見過ごせねーな)
春一はSRよりも少し前で停車することにした。




