2-7
「いらっしゃいませ。こんにちは。こちらへどうぞ」
次の日、ネルロが四季文房具店を訪れると、夏輝が笑顔で彼を迎えた。昨日話をした奥の仕切りの中へと招かれる。そこには、ノートパソコンのキーボードをたたいている春一がいた。
「こんにちは。ネルロさん、でしたね?」
「あ、はい。こんにちは」
春一はノートパソコンをどかし、ネルロに向かいの席を勧めた。ネルロが座ったのを確認した夏輝がコーヒーメーカーからポットを取り出し、カップにコーヒーを注ぐ。
「まぁ、どうぞ。召し上がってください」
「あ、ありがとうございます」
春一はネルロにコーヒーを勧めて、自分も一口飲んだ。ソーサーにカップを置くと、春一は前傾姿勢になって手を組んだ。
「さて、早速本題に行きたいんですが、よろしいですか?」
「はい」
「まず、俺が聞きたいのはフレイムの容姿です。あなたはフレイムの唯一の目撃者だ。少しでも覚えていることがあれば、言ってください。断片的な特徴でも結構です」
ネルロは目を閉じて、記憶を呼び起こした。春一は紙とペンを持って、ネルロの答えを待っている。
「ええと……目は、狐目でした。鼻は高くも低くもない。口は大きい。笑うと、三日月みたいになる。中肉中背で、服装は灰色のジャージ。フードをかぶっていたから髪型はわかりません。……身体的な特徴は、そのくらいです。あと、剣を持ってた。右手に。西洋の剣で、長いやつ。思い出せるのは、以上です」
春一はネルロに言われた特徴を組み合わせて、似顔絵を描いた。後ろからそれを覗いていた夏輝が、春一に耳打ちする。
「ハル、その絵はひどすぎます。正直言って、小学生の方が上手です」
「うっせぇ馬鹿夏」
確かに春一は絵が得意ではないが、それを指摘されることの方がもっと得意ではない。というよりも、嫌いだ。春一はネルロに見えないように夏輝の足を思い切り踏んだ。
「いっ……!ハル!」
「夏、お客様の前だぞ。静かにしろ」
「……っ!あとで、覚えておいてください」
「何のこと?」
睨む夏輝に春一は舌を出して、ネルロに向き直った。
「さて、ネルロさん。依頼は俺にボディガードをしてほしいとのことでしたね?それについて打ち合わせをしましょう」
その後、春一とネルロはいくつか話をした。ネルロがどこかに出かける時は、必ず春一か夏輝がついていくこと。家にいる間は、ガードはいらないということ。何か気付いたことや思い出したことがあったら、すぐに連絡をすることなどを決めた。
「わかりました。話は以上です。お疲れ様でした。では、家までお送りします」
春一は立ち上がって、ネルロを連れて店から出た。店の裏に停めてある白いFCのロックを外す。
「あの、よかったらバスで行きませんか?僕の家、バス停のすぐ横なんです」
「ええ、いいですよ」
春一は再び鍵を閉め、バス停へと歩き出した。
「ただいまー」
ネルロを送り、春一が帰ってきたのは午後の六時半だった。
「夏、今日のメシ何?」
「おかえりなさい。私は出かけてくるので、何かしら適当に食べていてください」
「どこ行くんだよ?」
「大学の友人と、イタリアンレストランに」
「……テメェ、さっきの仕返しだな」
口元をひくつかせる春一とは対照的に、夏輝はその爽やかな笑顔を春一に向けて出ていった。
「あんの野郎!チクショー、こうなりゃやけ食いしてやる!」
カップラーメンを三食くらい食い散らかしてやろうとした春一は、いつもインスタント食品が置いてある棚を覗いた。しかし、そこは空だった。
「夏の野郎、全部隠しやがったな!メシねぇじゃねーか!」
冷蔵庫の中も空っぽだった。あるのは牛乳とチーズ、ドレッシングなどのソース類のみ。
「帰ってきたらぶん殴ってやる……!」
拳をわななかせた春一だったが、空腹には勝てず、結局近くのハンバーガーショップまで車を走らせることになった。




