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その頃、夏輝が切り盛りをする四季文房具店には一人の来客があった。
「いらっしゃいませ」
戸を開けたのは、見た目二十歳半ばくらいの優男だった。カジュアルな服装に身を包み、背は高めだが百八十センチを越えない。どちらかというとやせ形で、頼りなさそうな感じのする男だった。
夏輝は彼が妖怪であることを感じ取っていたので、普段のように「何かお探しですか?」とは聞かずにそのまま奥へ案内した。
「失礼します」
勧められた椅子に座った妖怪は、向かいに座った夏輝を上目づかいで見た。夏輝は誓約書を出して、そこにサインするように求めた。誓約書とは、春一が考え出した事務的な手続きで、そこには「どんな人間が捜査をしても文句を言わないこと」といったことが書かれている。元々は高校生だった春一が子供相手だと信用してもらえないからと自分が姿を現す前に書かせていたものだが、今では一種の書類としてサインをしてもらっている。
妖怪はそこにサインをして、夏輝に紙を渡した。
「ネルロさんですか……。失礼ですが、どちらの種族で?」
「僕はベルです。少数派の種族ですけどね」
ベルという種族は夏輝も聞いたことがあった。ヨーロッパに生息する妖怪で、どちらかというと妖精と言った方が近い。その名の通りベルのような大きい鳴き声が特徴で、その声は人間の声域から蝙蝠の超音波まで出せるという。
「本日はどのようなご用件で?」
夏輝が尋ねると、ネルロは膝の上で両手を軽く重ねて声を絞り出した。
「じ、実は僕……命を狙われてるんですっ!」
今にも泣きそうなくらい顔を歪めながら放たれた言葉は、夏輝の思考を一瞬フリーズさせた。しかし彼の頭はすぐに回転を再開した。
「詳しくお聞きしましょう」
夏輝の冷静な一言に、妖怪は下を向いて苦しそうに一語一語を発した。
「僕、殺し屋である妖怪に追われているんです。そいつの名前はフレイム。聞いたこと、ありますか?」
その名前には夏輝も少し聞き覚えがあった。過去に妖怪や人間、見境なしに六人を殺し、今では枢要院から追われている身の殺し屋だ。
「そいつ、枢要院の手から逃れてきっと僕を殺しに来ます!」
「失礼ですが、何故あなたが命を狙われるのです?」
夏輝の疑問に、ベルは思い切ったように言った。
「僕、フレイムの顔を見たことがあるんです。フレイムは実態がわからない殺し屋です。そんな奴の顔を、僕は見たことがあるんです。奴が殺しをしている時に、僕は偶然その場を覗きました。それで、奴と目が合って……。あいつ、僕を見て笑ったんです。嬉しそうに……。だから、いつか僕のことを殺しに来る、そう思ったんです。……噂で、聞きました。フレイムは、最近数珠に戻ってきてるらしいんです。だから、春一さんに僕のボディガードをお願いしたいんです!」
夏輝は一つひとつの情報を咀嚼しながら、結論を出した。
「お引き受けしましょう」




