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「ここから南に二キロくらい行った所にコーヒーショップがあるだろ?」
藤は春一からライターを取り上げて新しい煙草に火をつけながら、三人の顔を見回した。三人はそのコーヒーショップに思い当たったらしく、小さく頷いた。そして藤は、話の核心を突くべく頭を三人に寄せて声を潜めた。
「そこで働いてる店員が、実は指名手配犯なんだ」
さすがの三人も、その言葉には息を呑んだ。藤は煙草を一口吸って、煙を宙に吐き出した。
「どういうこと、おやっさん?」
春一が三人を代表して質問を口にする。藤は再び煙草を咥えて、難しい顔をした。
「以前、殺人を起こした指名手配犯が、そこで働いてるらしいんだ。顔は整形してるからはっきりはわからねぇ。だが、信用できる情報筋から仕入れたネタだ。俺ら警察としても何とか捕まえたい。だが、そんな理由で捜査許可は下りないし、下手に俺みたいな刑事が張り込んでガラ躱されちゃあ元も子もねぇ。そこで、だ。お前らが客を装ってそいつを張り込んでくれねぇか?その間、俺は証拠集めに走る。お前らが張り込んで、何か情報を仕入れたら、逐一俺に連絡してほしい。確実な証拠を掴んだら、警察が逮捕する。頼まれてくれるか?」
真剣な顔で三人を見回す藤に、春一が口を開いた。
「一応俺らも大学あるしね、時間が取れる時と取れない時があるんだけど」
「そいつが働いてる時間は、大体夜の五時半から十時。休日は一日いる。だから、お前らの大学が終わってからやってくれればいい」
「ってカ、おやっさん少年課でしョ?それって一課の仕事なんじゃねーノ?」
「確かにそうだ。俺なんかが出る幕じゃねぇ。けど、俺は見て見ぬふりはしたくない。俺みたいな馬鹿な刑事が集まって、仕事の合間に事件の捜査とかしてるグループがあるんだけどな、そいつら全員、このヤマは何としてでも解決してぇって思ってる。だから、協力してくれ」
頭を下げる藤に、三人は同時に溜息を吐き出した。
「嫌いじゃないよ。おやっさんのそういう真っ直ぐなとこ」
「俺モ。嫌いじゃないシ、結構好きだったりするゼ?」
「おやっさん何気に熱血漢なんだよねー。それって、結構痺れる、みたいな」
頭を上げた藤に、三人は笑いかけた。
「しょうがない。おやっさんの頼みじゃ断れねーわな」
「あそこのコーヒー、飲んでみたかったしナ」
「イケメンの店員さんいるって噂だし」
「お前ら、ありがとな」
顔を赤くしながら藤が礼を言うと、三人は顔を見合わせて一気に噴き出した。
「うっわ!おやっさんが『ありがとう』だってよ!」
「こりゃあ明日は雪カ!?」
「嵐かもしれないよ!」
「お前ら!たまに礼を言ってみりゃこれか!なしなし、今のなし!」
藤は今しがた自分が口に出した言葉をかき消すようにぶんぶんと手を振った。しかし、この三人が簡単になかったことにするわけがない。その後も注文の品が届くまで、藤はからかわれる結果となった。




