6話 初めての狩猟・・・手伝い
母さんの妊娠が判明してから2週間がたった。新しい剣にも慣れたころ、父さんが初めて街の外に狩りに連れて行ってくれることになった。
「今回は経験を積むくらいの気持ちでついて来ればいい。薬の材料となる魔物と薬草を採集して野営はせずに帰るから余り遠くへも行かないしな。荷物持ちだけで終わる可能性もある。
今回の狩猟はカレンが身重になったからな、薬屋の収入減を補うために、売れそうな物、薬になる物、食料などとれるだけもって帰りたいからな、頼むぞ力持ち!」
「うん、まあいいけどね。街の外にも興味あったし・・・生まれるの弟かな妹かな~」
街の外に続く大通り歩きながら若干はしゃぎつつ父さんに返事をした。服装は長袖シャツとズボンに初めて身につける鎧と篭手、剣を2本両方の腰にさして、大きな背嚢を背負い、さらに今回は手にも革の袋を持っている。父さんも今日はいつもの軽鎧に長剣、太ももには採集に使うナイフを括り付け、大きな背嚢を背負っている。
街の外に出たら父さんを街道を外れ一番近くの森に向かって歩き出した。
「生まれるのは妹だよ」
「何でわかるの?まだお腹も目立たない位なのに」
「お前には話した事無かったか・・・魔女ってのはな、種族じゃないんだ。脈々と続く呪いみたいなもんだ。始まりは良くわからないが、魔女は妊娠すると必ず1人目は女の子を生む。その子が生まれる時には親の魔力のほぼ全てを持って行き、その子は生まれもっている魔力と合わせて膨大な魔力保持者となり、次代の魔女となる。そして親の魔女は魔力を失い知識はあるが一般人として生きていく。そうやって続く系譜、これが魔女だ。
魔女は代々黒髪黒眼で美人が多いため、その魔力と合わせて権力者に狙われ易い。神聖帝国に至っては魔女は異端だからと魔女狩りをしているくらいだ・・・
これからは今まで以上に周囲に注意が必要だ、カレンは戦えなくなるし、娘は魔力はあっても扱えない。自由都市連合の中にいるかぎり他の国の軍隊は気にしなくてもいいが、人攫いや街に潜った間諜は狙ってくる可能性は高い。
っと、ここら辺にいるな・・・足元を見てみろ」
そう言って父さんは足元を指差した。
「獣っていうのは大体同じ道を毎日通る。結果そこは獣道になる、よく見ると足跡もあるだろう?その形は魔狼だな。皮は丈夫で装備品に加工されるし、牙はアンデットに効果があり鏃などに加工される。肝は魔術の触媒などに使わる肉は不味くてとても食えたものじゃないが他の獲物をおびき寄せるのに使うため捨てる所がほぼ無い。
一匹で行動することが多いため初心者パーティ向けの獲物だ。繁殖期には集団行動をするので注意しなくてはならない。
よし魚取りの要領で気配を消して足跡を追うぞ」
「了解」
父さんの講義に軽く返事を返してから、2人とも気配を隠して静かに獣道を進んだ。
しばらく進むと前方の少し広い場所で魔狼が毛繕いをしていた。幸いにもこちらは風下らしくまだ匂いでも感づかれて無いらしい。
「さて、ちょっくら行ってくる。隠れて周囲の様子を探っていろ」
そう言って父さんは静かに駆け出した。
結果は一言で言えば一撃だった。不意をついた父さんの一刀が魔狼の首を一撃で落とした。そのまま父さんは太もものナイフを取り出すと血抜きと解体を始めた。
「解体している間にそこの木の葉を集めてくれ、回復薬の原料になる薬草だから、潰れてもかまわないが、他の物と混ざらないように持ってきた手提げ袋一杯になるだけ入れてくれ」
解体を横で見て覚えようとしてたらそう頼まれたので、いそいそと薬草を集め始めた。ついでにおやつになる木の実も拾っておく。
それからも魔術を放つ蝙蝠を捕ったり、紅猪という肉食の猪を倒したり、マンドラゴラの処理を失敗して死にかけたりした。
「よし、そろそろ帰るか」
父さんはマンドラゴラをしまいながらそう提案してきた。
当たりは徐々に夕方になろうかという時間だ
「そうだね、急がないと暗くなっちゃう」
一杯になった背嚢を背負い直すと街に向けて歩き始めた。
「どうだった?初めての狩りは?」
「思っていた以上に大変だね。常に周囲に目を配り獣の襲撃に注意しなくてはならないし、周りの木が邪魔になって剣が思うように振れない。それに特殊な薬草などは採取方法にも注意しなくちゃならないなんて知らなかったよ」
マンドラゴラを採取するときは引き抜く前に土の上から正確に根の喉の部分に切れ目をいれる。そうしないと即死効果のある魔力のこもった叫びがあがる。この叫び声をあげると根に含まれる魔力が無くなり、魔力回復薬の薬効が無くなってしまう。
僕は慣れるまでに3本だめにしてしまった。
「まあ、おいおい慣れる。しばらくは修行のかわりに狩りに行くのを手伝ってくれ」
その後は雑談をしながら街へと夕焼けのなかを歩いて行った。