4話 初めての決闘
バトルシーン難しい
剣の受け取りにダーハム武具店を訪れると店内から怒鳴り声が聞こえてきた。
「それは売りもんじゃねぇって言ってんだろうが!!帰れ!!」
「金ならいくらでも払うと言ってるだろぅ?こんな見事な剣見たことないよ~。金貨20枚じゃ不服かね?じゃあ40枚払おう。こんな大金ドワーフなんかじゃ一生かかっても手にはいらないだろう?」
店内に入るとダーハムと見たことないピカピカの服を着た男が一本の剣を挟んで対峙している。男の後ろには従者らしき男が無言で机に金貨を積んでいた。
ダーハムがいくら怒鳴り散らしても男は柳のように受け流しながら笑っている。
「ん?坊主来たのか、おーい、フェブ!ジャンが来たから鎧合わせてくれ!!
ほら、おめぇらもいい加減にしてくれ、俺はオーダーメイドは気に入った奴にしかしねぇ。しかも剣を使わずに飾っておく奴になんざ死んでも売らねぇよ」僕に気付いたダーハムが店の奥に呼び掛けるとフェブが両手に鎧と篭手を持って歩いて来た。
「そんじゃ鎧合わせるからそこ座ってくれ、まず胸部は一応脇の下の所に弾性が強く切れにくい飛竜のヒゲを用いてるからある程度は自然に伸びてフィットするけど、余りにきつかったり、緩かったりしたら直すから。じゃあ着てみて」
フェブが渡してくる軽鎧を着てみる。頭からすっぽりかぶる形で実際に体の形にフィットしてきた。苦しくない程度に締め付けられるおかげで軽く動いてもズレず、動きも阻害しない。肩当てはついておらず腕の稼働域をしっかり確保しつつ、心臓など重要な臓器の多い胴体はしっかりカバーされていた。
「うん、大丈夫。凄いピッタリだ。思っていたより軽くて動きやすい」
「当たり前だろ?父ちゃんが作ったんだぜ。ほら篭手つけるから手だして」
僕が感想を述べるとフェブは当然のように、それでいてとても嬉しそうな顔をして僕の手をとると篭手を装着し始めた。
「篭手のサイズも大体いいかな・・・よし、微調整も完了!脱いでもいいよ。後は剣の握りの調整をしたいんだけど・・・まだあっちはかかりそうだから、ジャジャ~ン!ほらこないだ言ってた俺の作った短剣だ。持って感想を聞かせてくれよ!」そう言ってフェブは短剣を一本持ってきた。皮の鞘に入った無骨なフォルムで柄は木で出来ており、手形の形に削ってあり、握ったらしっかりフィットしそうである。
「わかった・・・うん、握りは凄い持ちやすい、違和感はないね。」鞘から引き抜いた刀身は漆黒、磨き抜かれた側面には自分の顔が写り込み怪しく光を反射している。
「綺麗な剣だね。でもなんだか思ってたより大きくないかい?」
短剣として作られたはずの剣は刀身の長さが60cmくらいあり形状は全体的に片刃で先端だけが両刃になっている。
「最初は大振りのナイフを作るつもりだったんだけど黒鉄で剣鍛えるの初めてで興奮しちゃって気付いたら普通に剣作ってたんだ。サイズ的にショートソードとして丁度いいだろ?是非使ってくれよ!」
そう身振り手振りを交えながらフェブは暑く語り、鞘と鞘を固定する為のベルトを腰に着けてきた。
「ん?なんだ、黒剣じゃないか。店主、あんな子どもには売ってもこの僕には売れないのかい?」
こっちの様子に気付いた客の男がこっちに歩いて来た。
「ん~こっちの剣も見事な出来だね~。君、使いこなせない武器は怪我の元だよ?僕に譲りたまえ」
「お客さん、この坊主はなかなかの使い手だぜ?おめぇさんよか断然なぁ」
こっちに向かって手を伸ばしてきた男との間に割り込みながらダーハムさんがこっちに長剣を手渡した。
「ほれ、頼まれてた剣だ。代金はすでに貰ってるからさっさと帰りな。」
ダーハムさんに渡された剣はさっきまで客との間で争っていた剣だった。
これも刀身は漆黒でフェブの物より更に黒が濃く、吸い込まれそうな怪しい雰囲気がする。形状は両刃で鞘は金属で出来ており装飾は少なく無骨なデザインをしている。刀身の長さは1m以上あり今の僕では大剣と呼べるほどある。
そうやって僕が剣に見とれていると客の男が怒鳴ってきた。
「その黒剣は僕が先に目をつけたんだぞ!!、ご主人言い値を払おう。それにこう見えても僕はギルドにも登録していてね、貴族でありながらDランクの冒険者として実戦で剣を振るっている戦士でもあるのだよ。実力は申し分ない筈だ」
「あ~も~うるせぇなぁ。しゃあねぇそんなに言うなら、2人で剣で決めろ。ついて来い」
面倒くさそうにダーハムさんは店に置いてある素振りようの模造刀を2本持つと店の横の修練場に向かった
「それでいいのだよ、ふふふ・・・素晴らしい剣が2本も手にはいる」
怪しい笑いをこぼしながら客の男とその従者はダーハムさんの後をついて、修練場に向かった。
「兄ちゃんの実力見るの楽しみだな!あいつ来たときから嫌いだったんだよね。人の事見下したような目しててさ。ボコボコにしてやってよ」
心底楽しそうに言いながらフェブも修練場に向かった。
「初めて父さん以外と戦うな。落ち着いて、どんな時も平常心だろ、ジャン。鬼の力をしっかり鎮めて、修行の成果をしっかりだせば、きっとなんとかなる」
自分の胸に手を当てて深呼吸をしてから、ゆっくりと修練場に向かった。
「さて、ルールは簡単先に一撃いれるか、降参したら終わりな、勝った方が剣を手に入れると・・・武器はこの模造刀を使え、一応言うが殺すなよ。鍛冶屋が血で汚れたら、タタラの神様に嫌われちまう」
模造刀を渡したらダーハムさんは修練場の中心に位地どった。その斜め後ろにはフェブと男の従者が控えている。
「そんじゃ始めんぞ、よ~い、始め!!」
ダーハムさんの合図と同時に僕たちは構えた。僕はいつも通り正眼で相手の出方をみる、相手は半身になって片手で剣先をこちらに突きつける形で構えている。
あの姿勢からなら突きがメインだろう。
初めて他人から剣を突きつけられるという状況に思っていたより緊張しているらしく、喉がカラカラになりながら相手の様子をしっかり観察した。
そしてふとした瞬間に剣先がわずかに揺れたと思ったら真っ直ぐに突きが伸びてきた。腕を狙ってると思われる、それは想像以上にキレが無く、剣先もぶれがある。
落ち着いてその突きを払うと、男は一度距離をとった。
「ははははは・・・僕の華麗なる突きを防ぐとはなかなかやるではないか。次は本気でいくぞ、怪我する前に降参した方が身のためだぞ」
(良かった。冒険者がこんな弱い訳ないよな。子どもだから手加減してくれたんだ)
とか思いつつ、次の男の突きを払う。さらに男は連続して突いてきたので再びぜんぶ払う。
「僕の連続突きが・・・くそ~こうなったら、風の精霊よ我が魔力を糧に願いに応えよ!疾風突き!」
風の魔力をまとわせた突きが伸びてくる、さっきまでの突きと違い、剣筋は安定しスピードも上がっている。加えて剣の周りの風自体にも殺傷能力があるようだ。
流石に受けたら痛そうなのでバックステップで思いっきり距離をとったら回り込むように走る。空振りによってバランスを崩した男の側面に回りこみ、伸びきった腕の先に一撃振り下ろした。
剣に当たった一撃は模造刀ながら男の剣をひしゃげて、地面に刺さり込んだ。
「あっ手加減ミスった。すみませんダーハムさん模造刀弁償します。
さて降参してください?」
「くそぅ、くそぅ、覚えていろ。帰るぞ!!」
悪態をつきながら男は帰っていった。
「ガッハッハ・・・いや~スッキリしたぞ。弁償はかまわん。そんなもん大した額じゃねぇ。しかし、1年デイリーの修行受けただけあるじゃねぇか、落ち着いて相手の動きがよく見えてる。おめぇ、このままいけばかなり強くなるな。
よし、その剣はおめぇのもんだ。そいつらもしっかり振って使いこなしてくれよ。後、一応注意しとくがな・・・黒剣を欲しがる奴は山のようにいる。街中とかじゃ滅多なことがない限り抜くな。
黒剣の原材料である黒鉄は原石の時点で微量の魔力を帯びている、それも他の魔力に干渉する特殊な闇の魔力だ。だから魔術や魔法陣を斬ると阻害され無効化できるし、強度も普通の鉄より各段に高い。この特性は魔術耐性の低い戦士に人気がある。そのうえ、原石の周りには魔力に吸い寄せられて亡者系統の魔物が大量に出てくるので入手がかなり難しいため値段が跳ね上がり、金目当ての奴らまで隙を見ては奪いにくるぞ。
あと手入れについてだが・・・」
真剣な顔をしながらダーハムさんの注意を聞いていると気付いたら夕方になろうとしているのに気づいた。
「すみません、今日はもう帰ります。晩ご飯までに帰らないと母さんが心配するんで。そのうえ母さん心配させた罰とか言って修行が5倍とかにされちゃいます。素晴らしい剣をありがとうございます。手入れの方法はまた後日聞きに参ります。それでは」
言うと同時に僕は家に向かって走り出した。
「おう、また来いよ!」
「バイバーイ、兄ちゃん」
後ろから聞こえるダーハムさん達の声を聞きながら赤く染まりだした街中を全速力で走って行った。