第1章幼年期編 1話よろしく
今回から主人公視点
う~ん、うまくまとまらない
――――熱い、熱いよ…父さん、母さんどこなの?
嫌だ!一人にしないで!どこにいるの!?おいていかないで!
熱い熱い熱いアツイアツイアツイアツイ・・・――――――
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
勢い良く起きあがると周りは夜、見覚えの無い景色が広がる。
「あぁ、目が覚めたのね?大丈夫?体は痛まない?」
焚き火で鍋を温めていた女性が話しかけてきた。黒髪黒眼のスゴく綺麗な女性・・・初めて見る人だ。
「お姉さん誰ですか?ここはどこですか?」
最大限に警戒しつつ質問してみる。
「そんなに警戒しないで。私はカレン。カレン・アークよ。冒険者をしています。ここはあなたの里をから降りて自由都市連合フリーダに続く街道の途中ね。あなたのお名前は?」
カレンと名乗った女性はこちらを安心させるようなとてもあたたかい微笑みをみせた。
「僕はジャン。ジャン・ボイドといいます。僕はどうしてこんな所にいるんですか?」
「そう、ジャンというのね?よろしくね、ジャン。
落ち着いて聞いてね?あなたの里は傭兵団に襲われて壊滅していたの。
私達は旅の途中で傭兵達があなた達の里を襲撃するという話を聞いて、放っておけなくて駆けつけたんだけど一足遅くて既に傭兵団は里に火をつけて去っていった後だったの。
あなたは家の中に隠れていたから助かったのね」
「えっ・・・なんで、嘘だ・・・父さん達は強い戦鬼なんだよ、そんな簡単に負けるわけ無いよ!」
「ごめんなさい。私達が間に合えばこんな事にならなかったのに・・・あの里には魔術の痕跡が残っていたわ。おそらく数人の魔術師で里を囲んで、丸ごと封印術式を施したんだと思うの」
「・・・カレンさんが僕を助けてくれたんですか?」
不思議とカレンさんの言葉は混乱せずに頭に入ってくる。
僕達、戦鬼は体に鬼の力を宿しかなり大柄な体と強靭な筋肉を持ち、硬い皮膚は簡単には矢を通さず、近接戦闘においては地上最強と言われている。
そんな戦鬼にも弱点はあり、他の種族には大なり小なり持つ魔力を生まれつき一切持たず、対魔防御はほとんど無い。そのため弱体化や封印術を用いて鬼の力を押さえられると手も足もでなくなってしまう。
おそらく里の大人はみんなそうやって討ち取られたんだろう・・・
「大丈夫?」
カレンさんは心配そうに顔をのぞき込んできた。
「大丈夫です。戦鬼に生まれたからにはいつかは戦いで死ぬか、鬼の狂気に飲まれて暴走するか。常に死を覚悟して生きていますから。
今はつらいというより悔しいです。今回僕は守られるだけで何もできなかった。僕も戦鬼の一人なのに」
悔しさに歯を食いしばり下を向いたら腕に黒光りする腕輪がついていた。
「これは何ですか?」
「あの時全身に火傷を負い、虫の息のあなたを助けるために他の戦鬼の血をあなたに飲ませたの。結果、鬼の力が活性化してあなたは助かりました。ただ活性化し過ぎた鬼の力に飲まれてあなたは暴走したの。その腕輪は封印術を刻み込んである封鬼の腕輪といいます。とりあえず、それをつけているうちは暴走はしないわ。」
「そんな便利な物があるんですか?今まで聞いたことありませんでした」
「ドワーフに頼んで作ったダマスカス鋼の腕輪にエルフの刻印魔術を刻んでもらい、そこに私が3日にわたって魔力を注いで作った特別製だもの。これ一個しかないの。これだって実験的に作ったものだからいつまでも有効とは限らないわ」
カレンさんは残念そうに話す
「そうなんですか?凄い力は安定しているみたいですが。」
「だめね特にあなたはこれから成長期に入ると恐らく腕輪のキャパシティを超えるわね。なるべく早く自分でコントロール出来るようにしましょう」
ザッザッザ・・・
足音をさせながら暗闇から男の人が現れた。
「目を覚ましたようだな。カレン、ウサギだ血抜きは済ませてあるのでスープに入れてくれ」
カレンさんにウサギを渡しながら男の人はカレンさんの隣に座った。
「デイリー・アーク、冒険者でカレンの夫だ。坊主、カレンから大体話は聞いたか?」
「ジャン・ボイドです。助けていただいてありがとうございます。」
僕は慌てて頭を下げた。
「これからよろしくな」
そういってデイリーさんはその精悍な顔つきからは想像つかないほど優しい笑みを浮かべた。
「これから?」
「なんだ、カレンから聞いていなかったのか。ジャン、行くところ無いんだろ?これも何かの縁だ、俺たちの家族にならないか?」
「・・・いいんですか?僕は戦鬼ですよ?いつ鬼の力に飲まれてあなた達に襲いかかるかわからないんですよ?」
僕は僕達戦鬼は人間からしたら恐ろしく忌避すべき存在のはずだ。
「かまわん。お前より俺の方が強いしな。暴れたらいつでも殴って戻してやる。それに力のコントロール覚えるんだろ?」
ニヤリと笑いながらデイリーさんはこちらに手を伸ばしてくる
「・・・これからよろしくお願いします。」
僕は差し出された手を握り返した。
「あ~あ、せっかく私から言いたかったのに・・・よろしくねジャン。
それじゃご飯食べて早く休みましょう。明日には街までたどり着きたいもの。日の出と同時に出発するわよ。」
そうして、新しく家族になった3人の夜は更けていった。