16話 VS精霊剣士
翌朝、いつものように鍛錬を済ませたらすぐ朝飯を食べ、一足早く剣術の講師の所へ行った。
「皆のモチベーションを上げるために模擬戦の実施を提案します」
「毎回、素振りや型、打ち込みなど基本をやることは大事かもしれませんが一部の精霊剣士志望や魔術剣士志望が剣術自体にあまり乗り気でなく、結果全体がだらけた雰囲気になりつつあります。
そこで一度模擬戦を通して、ガス抜きを行いたく、そのための許可と引率をお願いします」
「・・・まあ、いいよ。確かに最近の剣術に対するやる気の無さは見逃せ無いしな。やるからには徹底的にやりなさい。死なない限りは治せるよう手配しておこう」
そんなことがあり最初の座学の時間に『今日の剣術の時間を何でもありの模擬戦にするので参加したいものは事前に準備してくるように。後衛も見学、参加を許可する』というおふれがだされた。
「なにあれ、ジャンの仕業か?」
「フェブなんか酒臭いぞ?」
「ああ、気にすんな。まあいいや、じゃあ俺も参加するかな~」
「俺は模擬戦をやらせてくれって言っただけなんだが後衛もこれるようになってるな・・・アプリやジュネは一応ユリを守りながら見ててくれ」
「よ~し、兄貴との特訓の成果を見せてやるぜ!!」
「マイトは危ないと思うぞ」
「そーだよ、お兄ちゃんじゃ実力不足だよ」
マイトはフェブとジュネにボコボコに言われて試合前からノックアウト寸前になっている。
「それは言い過ぎじゃないですか?・・・頑張って下さいね。皆さん」
「まあ、マイトも今のだらけたクラス内なら上位に入れるんじゃないかな。熱くなって突っ込まなければ」
アプリの慰めに軽く復活し、俺の言葉に持ち上げて落とされた。こいついいリアクションするなぁ。
「皆さん怪我のないように頑張って下さい。私頑張って応援します」
・
・・
・・・
そして模擬戦の時間になった。
「ん~、じゃあ時間も無いしパッパッとやるぞ~。基本相手を殺さなければ何でもありだ。武器は訓練用の刃引きしてあるやつなら何使っても良いぞ。じゃあ我こそはというやつから中央に出てこい」
「じゃ、まず俺いってくるわ、ハンマー・・・は無いよな。斧でいいか」
フェブが線で囲まれた中央に歩いていく。この線は結界らしい。
俺はさりげなくエルフの集団に寄っていった。
「はじめまして。お噂はかねがね聞いていますよ。かなりお強い精霊剣士なんですってね。私と手合わせ願えませんでしょうか?
ご指導お願いします」
こういう自尊心ばかりあるやつは持ち上げるに限る。
「ん~?なかなか見る目のある奴じゃないか。わかった、私の力の一端を見せてやろう」
よし!釣れた。
そんな事をやってるうちにフェブは相手の武器を砕いて勝利していた。
「ごめん。見てなかった」
「ああ、いいよ。相手雑魚だったし、1人1試合なら相手選べば良かった。不完全燃焼だ」
「フェブさ~ん、かっこよかったですよ~」
「フェブ~。つよ~い」
「フェブさん、強かったんだ・・・」
女子3人が鍛錬場を見渡せる窓から身を乗り出して見ている。
「ほれ、女子には受けてるぞ」
「ジュネは俺の事なめてたな」
「さて、件のエルフ兄をのしてくるわ」
そういって剣を持つと結界の中に入った。
「さて、どんなもんかね」
剣を構えるとはじめの合図がかかる。
とりあえず正眼の構えで相手の出方をうかがうと、相手は振りかぶると上段から斬りかかってきた。
(遅いし、剣筋はぶれてるし、そもそも刃がたってないぞ・・・おいおい、この数ヶ月何やってきたんだよ、それじゃ肉も切れないぞ)
1歩下がってかわすと続けて斬り(・・・)つけてきた。
「私の剣をかわすとはやるな!しかしこの剣舞は何時までもかわしきれないぞデカブツくん」
続けてくる剣撃を紙一重でよけつつ、相手の様子をうかがうとだんだん息があがってきている。
「・・・はぁ~、もういいや。思っていた以上に剣の腕はへぼなんだな・・・本気(精霊)をだせよ。少しは楽しませろ」
わざと相手の剣に一撃加えて相手ごと弾き飛ばし、距離をとらせて、挑発する。
「く、やるな!いいだろう。そのなめた口をふさいでやる。
契約に従いて魔力を糧に顕現せよ。汝は我が腕、我が剣、我が盾である。来い!シルフィール!!」
詠唱に合わせて膨大な魔力が体から空中の一点に向かって流れて行くのが見える。
「・・・自慢するだけあって精霊召還くらいはできるのか」
精霊術には段階があり、基本は精霊の力のみを借りて行う精霊術がある。ある程度以上の術者は魔力を糧にして契約した精霊を一時的に召還する事で精霊の力を直接使えるようになる。
「行くぞ、シルフィール。さあ降参するなら怪我する前にしたまえよ」
こちらを見下した笑いを浮かべながら精霊を引き連れ悠々と歩いてくる。
「ふん、下級精霊を召還したくらいで勝った気になるなよ。器が知れるぞ」
「ふふふ、減らず口も何時まで続くかな・・・行くぞ!!」
精霊から風の刃が迫ってくる。その数3・・・
「やっぱりお前には決定的に戦いのセンスがないのか?」
隙間だらけの風の刃をよける。
「本当に避けることばかりが上手だな・・・ならば、やれ!!シルフィール」
風の刃が縦横無尽に駆け回り周りを囲む。正面からは6本が真っ直ぐ向かってくる。
「ほ~やればできるじゃないか・・・」
「ジャン!!」
アプリの叫び声が聞こえる。周りの生徒も息を飲んで見つめている。
「お前程度には過ぎた技だが・・・本当の剣術を見せてやる」
脇構えになり、地面をしっかりと踏みしめる。前からくる風の刃まで2m。
1歩踏み出す、踏み込みの足でしっかりと地面を掴み、膝で伝え、腰で回転運動に変換、体幹で増幅し、肩、腕と力を加えて振り抜く。
「奥義『龍断ち』」
空間も斬るかと思う神速の斬撃により風の刃は切れ、力は霧散した。
「え・・・バカな・・・」
思わず固まっている相手に一気に駆け寄ると・・・
「残念だったな。また契約し直すといい」
相手の精霊に向けて再び『龍断ち』を放った。
霧散する精霊シルフィール。そのままの勢いで相手の剣を叩き斬った(・・・)
「俺の勝ちだ。精霊がどれだけ強力でも使う人間が無能だと意味がない。もっと自分自身を磨くんだな」
そう言い捨てて結界の外に出た。
「お前、『龍断ち』使う必要あったか?」
フェブが水を手渡しながら聞いてくる。
「やるなら徹底的に力の差を見せてやらないとな。それに毎日修行を頑張ってるマイトにも目標を見せておこうっていう意味もある。
しかし俺もまだまだ、だな。これじゃ『龍断ち』もどきだ。せいぜい下級の龍を斬るのが精一杯ってところか」
手元の模造刀は風の刃とぶつかった時にヒビがはいっている。キレと入射角が悪いため剣に余計な負荷がかかっているらしい。
「動かない的には成功するようになったが、動くものにはまだまだだ。これだけでも今日はいい収穫になった」
フェブとそうやって他の試合を見つつ、話していると次はマイトが結界に入っていった。
「お、一番弟子が入っていくぞ、声かけなくて良かったのか?」
「まあ、アイツなら大丈夫だろう。センスだけなら抜群だからな。マイトに足りないのは実戦の経験と自信だけだ」
マイトの相手は槍を構えている。無手のマイトとは間合いが違いすぎるが、どうするのか・・・
マイトは開始と同時に駆け出す。一直線に走り寄るマイトに相手は槍を一突き、刺さる瞬間に見切り横にかわす。相手はそのまま横なぎでマイトをふっ飛ばそうとするが伏せることでかわし、更に接近、既に槍は振り回しにくい距離まで近づいた。そこからは一方的に連打を打ち込み相手はその場に崩れ落ちた。
「兄貴、俺の試合どうだった?」
「槍の間合いの中に入ってしまえば槍は無効化できる、その事に気付き、実践したのは素晴らしいと思うぞ。
ちょっと身体能力頼みで危なっかしいのは直そうな。実戦を積んで戦いにおける勘を身に付ければもっと余裕をもって戦えるだろう」
頭を撫でつつ論評した。
「さて、とりあえずアプリ達に合流するか・・・」
そうしてみんなで集まり今日の試合について話し合った。
「ジャンはやっぱり強いですね。でもあの風の刃に囲まれた時はヒヤッとしました」
「心配させたか、すまんな。アイツの全力を叩き潰す必要があったからな。ほら見てみろあそこ、ボ~と虚空を見つめている。自信を持っていた精霊を切り捨てられてかなりショックを受けているようだぞ」
「そうだ、ジャン兄どうやってあの状況を切り抜けたの?」
「あ、それは私も知りたいです」
ジュネとユリが口々に聞いてくる。
「マイトはわかったか?俺が何したか」
「ん~、速すぎてボンヤリとしか見えなかったけど、めちゃくちゃ鋭い剣撃で空気ごと切り裂いたのかな」
「その通り、神速の斬撃に斬れぬものは無い。それが奥義『龍断ち』だ」
「えっ、あれただの剣撃なんですか?」
「ああ、そもそも俺には魔力が無いからな。身体能力のみの基本にして究極の剣だ」
「基本にして究極?」
「ああ、マイト・・・覚えておくといい。日頃やっている基本は積み重ねていった先には究極の一撃が待っている。お前は無手だが目標とするところは変わらない」
雑談をしているうちに全員試合が終わり解散となった。
ちなみに試合を見ていた他の生徒から弟子入りをせがまれたり、講師の方に手合わせを願われたりした。
弟子入りは却下で
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