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少女、追跡する

長く続いた林を抜け、ついに石畳に足をつけた。

(けっこうスピード出してるのに、なかなか姿が見えないわね)

交代したときの筋肉痛が酷そうだと思うくらい、αはわたしに出せるギリギリの速さで走っていたのだが、まだ目的の相手を肉眼で捉えることはできない。

(予想以上だね。一応追跡の魔法はかけてあるからいいけど)

いっそのこと、この際全部吹っ飛ばしてしまおうか、とαは冗談混じりで言ったが、それは却下だ。

(やめてよ、犯罪者になっちゃうし)

(いいんじゃないかな、二人で逃亡生活も)

そんなのゴメンだ。αは、少々怒りもおさまってきたようで、いつものようないい加減な声色だった。

そうしている間にも、景色はあっと言う間に過ぎ去っていく。 街に出たとは思ったものの、ここはわたしの知っているような賑やかな場所ではない。簡単に言うと廃墟のような。ボロボロの建物、人もちらほら見かける程度で、その人も裾がほつれたりと大分くたびれたような服装をしている。全体的に、灰色の澱んだ空気がこの場を包み込んでいた。

(ここは?)

(旧市街地だよ。公には、だれも住んでないことになってる)

なるほど。どこにでもある裏ってやつですか。

(ぼくが知ってる時代じゃ、裏が表にでてくるなんてことはなかったんだけど。『上』の管理に問題があるみたいだね)

αの言う時代が、いつのことなのか。そもそも、αの正体さえ、わたしにはよくわかっていない。

(αは、黒楽園に住んでたの?)

(住んでたってわけじゃないね。けど、キルシアが気にすることはないよ)

こうやって、αは自分のことについては、気にするなの一点張り。αは、わたしのことをよく知っているのに、不公平だ。

八年前のあの日から、なにも教えてくれやしない。

そんな会話をかわしながら、建物の屋根から屋根へ跳び移る。人通りが少ないせいで、誰にも邪魔されずに移動がスムーズだ。 目標の移動が止まる。近い。αが少しスピードを緩めた。

(ここまで大体、いくつくらい横道があったか、わかる?)

(……六つくらい?)

いきなりの問い。そんなものいちいち数えていないので、カンで答えると、αはなんともむかつく笑いを浮かべた。

(ブッブー! もっと細かく数えると九つ。覚えておくように)

わ、わけがわからん。とりあえず文句を言おうとしたとき、フッと意識を引きずりだされた。

「い、入れ替わった?」

αがやったのか尋ねてみたが、首をふる。

(違うよ。外から干渉された)

無理矢理沈められちゃったよ、とふざけ気味な答え。しかし、声色は張り詰めていた。

(ターゲットも消えた。代わりに、キルシアもわかるよね)

少し心を静めて、頷いた。普段からひよこちゃんと言われるわたしでも、これはわかった。

(魔力、だよね)

人外のものたちが生まれながらに持つ、生命力のカタチ。魔術という不思議を扱うために必要な燃料。

わたしは人間だからか、この町にやって来てからも、その気配を感じることは滅多になかった。それでも、これははっきりとわかる。相手は、わたしたちを認識している。

(かなり力を放出してるね。やる気だ。キルシア、無理は禁物だよ)

大きな力にあてられたわたしは、よほど顔色が悪いのだろう。αが言外に一旦退こうとしているのがわかった。

(相手は魔女だ。それもタチの悪い)

さも相手をよく知っているかのように、αは悪態をつく。(知り合いなの?)

(そうだね、そっくりさんであることを祈ろうかな)

はあ、と疲れたため息をつく。

(とりあえず、無駄だと思うけど逃げてみようか。この空間の把握もしたいし、挑発にもなるから)

挑発という部分がいただけないが、わたしは頷き、方向転換して走り出す。さっきまでのダッシュで、体の節々が痛いけれどそんなことを言っている場合じゃない。

わたしが走り出したと同時に、ゾクリと寒気を感じた。

魔力が、追ってくる。

(α、本当にヤバすぎるよね、今)

(ヤバいね、彼女が本気できたらぼくもキルシアを守りきれないんだけど)

それなら、少しくらい慌てろ! 命が危ないということを知らされ、久しぶりに恐怖というものを感じた。

(守れなかったら、どうするの)

(良くて消しズミ、悪くてモルモット。ぼくはキルシアから引き裂かれる)

良くて即死というところが、怖い。(まあ大丈夫。それは最悪の展開だからね。死にたくなかったら、ぼくの指示に従って)

その自信の根拠がわからない。他に頼るあてもないから、不安ながら了承を伝えた。

(ぜんぶ、任せる)

「キルシアちゃんてば、怯えちゃってかわいー」

ふいに、甲高い少女の声が降り注いだ。

驚いてて上空を見上げれば、そこには有害に箒にまたがった黒が、楽しげに口元を歪めていた。 そんな馬鹿な、魔力はもっと遠くに……

(ダミーか)

αは悔しげに呟いた。

「ピンポン! しばらく会わないうちに、結構ボケたね、αサマっ」

こちらをよそに、明るい声で魔女がαに話しかけた。ーーなんでαのことがわかる?

「αサマだけじゃないよ、キルシアちゃんのこともよく知ってる。いきなりこんなことしちゃってごめーんね」

アハハッと全く反省していないのは今更どうでもよかった。それより、相手に思考が読まれている事実に、愕然とした。もう、なにがなんなのかわからず、αに助けを求めた。

(彼女の前で。理性的な思考は無駄だよ)

「酷いことゆーのね、本当。まあいいや」

けらけらと笑っていた顔を引き締め、魔女はわたしの目をじっと見つめると、にっこりとキレイに笑った。

「ハジメマシテ、あたしはサイカ。見ての通り、魔女ですっ」

よくキチガイって呼ばれるんだ、とトンガリ帽子を取ったサイカは、明らかにわたしにむけて舌なめずりをした。

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