表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

少女、世の厳しさを知る終

「はあ」

なんだかとても疲れてしまった。詳しい描写はするだけ無駄なので割愛させてもらいます。

(キルシア、なんで店から出たの? ケーキまだ残ってたのに)

話が違うと腹を立てるαに反論する気も起きない。(週刊まじかるの最終ページは、魔女っこ向けのゲテモノしか載ってないのよ)

いまどき魔女だって、見るからにゲテモノですって主張しているものを食べたりしない。それ以前にわたしは人間だ。

(人間じゃないでしょー)

わたしは人間だ。まあ、つまりそういうことだから、深く考えない方がいいと思う。

(つまりとか訳わかんないよ。ぼくのケーキ!)

(黙らっしゃい。元はあんたのせいなんだから、一週間甘味禁止)

なんでだよお! という叫びは無視して、王通りを歩く。こういう華やかな、人でごった返したところは窮屈だ。

仕事は主に寂れた地区でのことが多く、発展が遅れていて治安も悪いが、そちらの方が性に合う。

元より人との無意味な接触は大っ嫌いだし。 キイキイ喚くαを一喝して、自宅に進路を変えたその時だった。

(帰りにまじかる買ってこー)

ドンッ

「ごめんなさい!」

わたしの腰くらいの子が、強くぶつかって走り去っていった。

「元気だなぁ」

柄になくしみじみ呟くと、αが不思議そうに言った。(キルシア、あの子追い掛けなくていいの?)

追い掛ける訳無いでしょうが。変質者じゃないんだし、怒ってもいないよ。

(そうじゃなくて、お財布すられたよ、さっきぶつかったときにさ)

言われてみて、ハッとした。慌ててワンピースのポケットを確かめれば、元からなかったかのようにわたしのお財布がなくなっていた。

「ない、お財布が……」

わたしの全財産が。明日のごはんが。いろいろなことが頭に巡ったが、今は固まってる場合じゃない。

「待ちやがれこのクソガキィ!」

子供が行った方向へ全力ダッシュ。

(大人気ないな。身分証明書は入ってないんだし、財布の一つや二つあげたっていいじゃん)

(バカ。あれはわたしたちの全財産なのよ。明日オーレ一杯のめないどころか、ごはん抜き、ケーキだって食べれないのよ)

金があっても食べないけど。ケーキという言葉に反応したのか、αは急に怒りをあらわにした。

(それは許すまじ、だね。そういうことなら全力で追跡するよ)

(任せた相棒!)

探知の呪文で場所を把握したαの指示に従って、自分の出せる速度限界で走り抜ける。

(キルシア、もっとスピード上げて)

(出来たらやってる)

さすがに、スピードを落とさず入り組んだ細い道を曲がったり、階段を上ったりはキツイ。

(どんどん離れて行っちゃうじゃん。……あれ)

(どうかしたの?)

ズザザザッと靴を地面に滑らせ方向転換。(いや、なんかターゲットが止まったから)

それはチャンスだ。力を振り絞ってラストスパートをきった。すべては明日の生活のために。そうして最後の角を曲がり、ビシッと指を突き付けてやった。

「わたしのお財布を渡しなさい!」

しかし、わたしの指の先にいたのは、その子供だけではなかった。

「アア?」

鋭い目つきでガンをつけてくる、ずんぐりむっくりなおじさん。ガキはなんだか知らないけれど、目を輝かせてこちらを見つめてきた。

「お姉さん、来てくれたんだね!」

お姉さん? 後ろを振り返ってみたが、誰もいない。首をかしげたら、αが面倒そうに言った。

(キルシアのことだよ)

「わたしぃ!?」 驚いて自分を指指してみれば、子供はこくこくと首を縦にふった。

「お姉さん、助けて!」

子供はおじさんたちに腕を掴まれているらしい。どうでもいいから、さっさと財布を返せ、と言おうとすると、いきなりなにかが飛んできた。

「おっと」

反射で軽く頭を動かすと、おじさんはチッと舌打ちをした。その手には銃という代物が収まっていて、煙をふいている。

(じ、じゅーだよ。この国じゃ使用禁止じゃなかったっけ)

銃器および銀製の危険物は持ち込み禁止のはずだった。

(おじさんはドワーフみたいだし、材料を調達して自分で作ったんじゃない?)

バカだねーとαは笑う。(よりによって、ここでつかっちゃうとは)

「お前、このガキの命が惜しけりゃ、おとなしくするんだ」

わたしに向けていた銃口を、今度は子供に突き付ける。

まったく話を聞かないおじさんだ。わたしはアイツに財布をすられ、命が惜しくもなんともないんだが。しかし、法律違反をおかしたおじさんを一発殴るのもわたしの仕事だろう。

(ほんと素直じゃないよねぇ)

αの言葉を無視し、手をひらひらふりながら、わたしが一歩近づくと、おじさんはさらに強く銃口を子供の頭に減り込ませた。

「止まれ! コイツがどうなってもいいの……」

か、と口にした瞬間に、αと替わり、グッと強く踏み切った。

「ヒッ」 引き金を引く前に、もう一度わたしに替わって頭に一発食らわせてやる。

うめき声をあげて、おじさんは倒れ込んだ。そこにすかさず腹を蹴りあげてやれば、痙攣した後に動かなくなった。

「お仕事終わりっ」

(おつかれさま〜)

パンと両手を合わせて、ふう、と息をつく。わたしも殴るのが様になってきたかな。

(後で残業代請求しないとね)

がめついなぁとαが笑った。

さて、お金ということで、当初の目的を果たそうか。そぅっと逃げ出そうとしていた子供の肩をガッと掴んで、こちらを向かせる。「さあて、わたしのお財布、返してもらおうかな、このクソガキ」 なるべく優しい声で言ったつもりだったが、子供は顔を青くしてガタガタふるえていた。これではわたしが虐めてるみたいじゃないか。

(クソガキが余計なんだよ) とαが言っていた。しかしそういう問題ではないだろう。多分。まあめでたく、その子は半泣きでしっかり(握りしめてグシャグシャになった)お財布を返してくれたのでした。ちゃんちゃん。

ーー一発殴ってやろうかこのガキ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ