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少女、闇の中

かなり前回と時間が空いてしまいました……

「きゃああ!」

がくんとした揺れに、ついにテーブルから身体が投げだされる。と、思ったとき、やわらかく抱きしめられ、わたしは倒れずにすんだ。

「大丈夫?」

「あ、はい」

身体が自然と強張る。わたしを抱きしめたのが、他でもないサイカその人だったからだ。……わたしたち以外には、誰もここにいないから当然か。

大きな揺れはないものの、今も小さな揺れが続き、テーブルの上のカップがカチカチと音をたてる。

「この揺れは?」

この不思議な空間で、地震はないだろうし。先程もなにか知っているようであったサイカに聞けば、答えが返ってきた。

「ちょっと攻撃を受けちゃって。まったく、酷いことするんだから」

 キルシアちゃんもいるのにね。と呆れたように呟いたが、表情は硬い。どうやら、外でなにかあるらしい。αがなにかしているのだろうか。

「御名答。そのとおり、αサマだよ」

また、読まれた。わたしはなにも言っていないのに。サイカはまた空を見上げてから、言った。

「思ってたより時間なくなっちゃったけど、ちょうどいいや」

なにが? 言葉にするまでもなく、いきなり額に痛みが走った。

「いたっ」

 デコピンされたのだ。思わず両手で押さえると、ぽんぽんと頭を押さえられて、声が降ってきた。

「駆除してくるね。正当防衛だから、ぎりぎりOKだし」

 子供が悪戯を考えついたときのような顔で、サイカは続ける。

「大人しくまっててね、キルシアちゃんっ」

「や、止めてよ。どうしてそんなこと……」

 あわててサイカにつかみかかる。けれど、寸でのところでサイカは姿を消してしまった。すり抜けた腕につられて、地面に倒れ込む。

「待ってよ、サイカァァァァァ!」

 叫んでみても、答えはない。ただ、どこからかふいてくる風に、木に生えた葉が揺れるだけだ。

いつまでもこうしていたって、何も始まらない。サイカがαに何かしようとしているのは明らか。そっちはもうαにまかせるしかないし、とりあえず、負担を減らすためにも、ここから脱出しなければ。

「冗談じゃない。絶対αのところにかえってやる」

 もとはわたしの体だけどね! 立ちあがって決意を新たにした矢先。地面がズボッと抜けた。それはもうきれいに。

「うひゃう」

 片足がはまって、おもわず声が出てしまった。ここにきてから、悲鳴が目立ってきたかもしれない。誰に笑われるでもないが、なんとなく恥ずかしい。αにばれてはたまらない。

 ぐっと足を引き上げて、はまった穴を覗き込む。ヒュウヒュウと唸るような音が聞こえてくる。

「真っ暗だなぁ」

 これも、攻撃を受けた影響なのだろうか。それにしては、あまりにも自然に感じた。だって、地震もなにも起こっていない。サイカが消えたタイミングを図っていたのか?

 あたりを見渡すと、景色がパズルピースのような半透明のかけらにかわり、崩れては消えていくという現象が起こっていた。こちらにも迫ってくる。

 これはやばい。そう感じたと同時に、思い切って穴に飛び込んだ。

 ビュンビュンと生ぬるい強風が体に打ちつける。真っ暗のはずだが、自分の姿ははっきりと視ることができた。――もうこの手のびっくり現象には驚かないぞ。

 されるがままの状態で、ただ落ちていく。もはや落ちているのか、上っているのかわからない。浮遊感だけが、わたしの感覚を支配した。

『おはよう、おはよう』

『魂の部屋へようこそ』

ボウッとわたしの周りに、三つの明かりが現れた。

『客人なんてめずらしい』『なんて幸運なお客様だ』『可哀相すぎて涙が出る』 明かりは黄、白、赤の三色で、思い思いに喋り出す。って。

「しゃべった!」

『なんて無礼なんだ』

『喋らない明かりはただの明かりだ』

『わたしたちは明かりじゃないぞ』

一斉に非難され、ぐっと言葉に詰まる。沈黙に堪えきれず、頭を下げた。屈辱。

「ごめんなさい……」

『わかったならよろしい』

『客人を虐める趣味はないさ』

『ようこそ、魂の部屋へ』

「魂の部屋?」 なんだそれは。わたしはサイカのナカとやらにいたはずで、そんなところに来た覚えはない。

『見たところ、お客様は魔女じゃないようだ』

『迷いこんだんだな、可哀相に』

赤と白がめちゃくちゃに飛び回る。

『ここは魂の部屋。魔女たちの心の底で繋がる場所』

魔女? 心の底で? イマイチ理解できないわたしを見兼ねたのか、黄が強く光った。

『人の心は、最も深い場所でつながりあっている、という話を聞いたことはないかい』

「全く」

 そう答えれば、黄ががくんと下降し、代わりに周りの赤と白が、それぞれ別々に喋り出す。

『この魂の部屋はすべての魔女の魂、つまり心につながっているのさ』

『君は誰の魂からきたんだ?」「えっと……」

『レイノール? アリア? 大穴でキュリエはどうだ』

『人好きな魔女じゃないかもしれない。信託のレナはどうだい』

『レナはもう消滅したのでは』

 わいわいと二人(?)で言い争い始めた赤と白。いいかげん耳元で話すのをやめてくれ。

「うるさい、静かにして! わたしはサイカのところから来たの!」

 大声で言った瞬間、シンとあたりは静まり返った。さっきまで騒々しく飛び回っていた赤と白もピッタリとその動きを止め、黄にいたっては、チッカチッカと点滅している。これもうただの明かりじゃん。

『サイカだって?』

 最初に動き出したのは、黄だった。まだ動揺しているのか、チカチカは止まっていない。

『あの有名な人嫌い、サイカか? 同姓同名? なにかの間違いじゃないのかいお客さん』

『いや、同じ名前の魔女はいない。厳しく定められているから。世代交代でもあったのか』

 次は白、赤の順で動き出し、わたしを問い詰める。

『その魔女は、どんな姿をしていた?』

 黄の問いに、サイカの姿を思い浮かべながら答える。

「髪と目は黒くて、とんがり帽子。髪型はツインテールで……枝分かれしたさくらんぼの髪飾り」

『さくらんぼ。サイカのトレードマークだ』

『そんなかわいらしい性格じゃないけどな』

 くすくす笑いも含めて、赤と白が口をはさんだ。

『どうやら、本当にサイカみたいだ。なにをやってたかは知らないし聞かないことにするが、お客様はこれからどうするんだい』

「どうするって、地上に戻るしかないでしょう」

 黄の問いに、当たり前のことを言うと、笑い声があたりに満ちた。

『アハハハ、おもしろいことをいうな』

『魂のままのお客さんが、いきなり外に出ては、一瞬で消滅してしまうよ』

『ここでサイカが気づくまで、まっているのが得策かな』

「はあ? ここでただ待ってろって、冗談じゃない」

わたしにはどうすることもできないというのか。

もう、オーレ不足でイライラする。はやくこんな胸糞悪い暗闇から脱出したいのに!

「どうにかならないの、明かり!」

『明かり、明かりっていったな小娘』

『サイカに気に入られたからと調子にのってはいけないな』

じわじわと近づいてくる赤と白、もとい明かり一号二号に向かって、わたしはどなりつけた。

「うるっさい! あんたたちのことなんて知ったこっちゃない。わたしは早くαのとこに帰らなきゃいけないの!」

竦み上がるように、一号二号は小さくって、どこかへ飛んでいってしまった。

ああせいせいした。あいつら、纏わり付いてピーチクパーチク、何様なんだ。

脱力してただ落ちていく。そういや、まだ下にはつかないのか。

『実際に落ちているわけじゃないからさ』

目の前にパッと現れた黄に驚き、思わずのける体制になってしまった。

「び、びっくりした。まだ残ってたの」

『先程は失礼なことをした。あの二人は新米だから、どうか許してやってほしい』

「あ、いや、さっきは頭に血が上ってたので」

改めて謝られると、こっちが情けなくなってしまう。自分の行動を振り返って、ところどころあちゃーな場面もあったし。それよりも、上下関係あるんだね。

『そう言っていただけると有り難い。しかし、本当に今のままでは、お客様は外に出ることができない』

きっぱりと断言されては、どうしようもない。ハァとため息をついた。

「そうかぁ」『きっとα様が助けにくる。それまでの間は、話し相手くらいにはなろう。お客様の名前は?』

「キルシア。あなたは」

『ジニアだ。長い間、この魂の部屋の管理をしている』

それから、わたしはジニアからいろいろな話を聞いた。魂の部屋のこと、魔女のこと、魔術のこと。

正直こんな詳しく教えてもらっていいのかってくらい。まあ、わたしの頭では、大体三割くらいしか理解できなかったけれど。

『キルシア様は本当に、持っている魔力が薄いな』

「薄い?」

『量はあるのに、中身がない。どう表現すればいいのか』

どんどん話に引き込まれていく。わたしはただ何も考えず、ジニアの話に聴き入っていた。

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