死が二人を分かつ時
タキシードをまとった若い男に、やはりグレーのスーツを着た同い年くらいの男が切々と語りかける。いわく、結婚は人生の墓場だ、今が仕事も遊びも最高に楽しい時期だ。これからだというのになぜ結婚なんて選択したんだ。
「どうせ相手の女が、結婚ってロマンティックね、なんて唆したんだろうけど、俺に言わせればそんなの錯覚だ。錯覚は永遠には続かない。いつかはさめるものだ」新郎の友人は眼を見開き大袈裟に両手を広げた。
「それに結婚だが万が一の間違いって事もありうる。取り返しの付かないことになるぞ」男は新郎の肩を抱き、耳元にささやいた。
「な、悪いことは言わない。ハネムーン前の旅行で彼女とこの星を出て他の世界を旅してみろ。きっと気が変わるはずだから」
この星の名がフリンジストーン星なのに、広くヴェラ星と呼ばれるのには理由がある。ヴェラとは、古典文学の有名作品であるロミオとジュリエットの舞台となった地球の一都市、ヴェローナの愛称であった。
約200年前、そのロミオとジュリエットを彷彿とさせる事件がこの星でも起こった。対立する東西2つの陣営に分かれた男女が、周囲に結婚を反対され、絶望して無理心中の果てに死んだのである。その当時、事件を知った星じゅうの人々が彼らに同情し、涙を流して、二度とおなじ悲劇を繰り返さないことを誓った。
その結果が、星統一議会の発足と、そこで定められた結婚制度廃止法だ。ほんの一部の泣かなかった政治家達が、貴重な人的リソースが失われたことに憤慨したのである。議会はしょっちゅう対立し、時には分裂し、混沌きわまりないが、熱狂的に決められた基本法を破ることは競争相手に開戦の口実を与えかねないため、法令遵守の姿勢だけは皆似通っている。
法律で禁じられた結婚を遂行する方法は二つしかない。この”ヴェラ”星を出て他の世界に移住するか、200年前の例にならって無理心中するか、である。無理心中して死亡した男女には永遠に夫婦であることが認められる。一度死亡して後生き返った男女に関してもそれは同じである。この結婚はロミオ婚と呼ばれ、フリンジストーン統一基本法22条7項の通称”ジュリエット法”によってきちんと定められている。死亡した以上、生前の全ての財産と相続権、選挙権、被選挙権は剥奪される。これもこの制度に対する反対の声が少ない理由の一つであろう。
ここからはホラーの類いとなる話だが、このロミオ婚の結果に対して根強く囁かれる噂がある。それは結婚後の女性の性格が前とは著しく違うことがある、その現象に対する説明なのだが、臨死状態に陥った女性に、結婚を成しえなかった恨みから現世を漂う、かのジュリエットの霊魂が取り憑いて体を乗っ取ってしまうのだという。ジュリエットは結婚できた喜びから、最初は有頂天になるのだが、そのうち相手がロミオでないことから不満を抱くようになり、やがてまた恨み辛みから結婚を呪うようになるそうだ。




