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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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9/29

ニコは見た!

またあの日の夢を見る。

忌まわしきあの日の…


ライズはまた始まってしまったか。とあまり考えないようにしていた。


記憶のなかのライズは大盾を持つ師匠を縦横無尽に責めていた。

傷だらけになりながらもなお立つ師匠にライズは剣を振り続ける。


……待てよ?


アスラと戦った時に似ていないか。縦横無尽に迫り来る刃を最低限の動きで守る俺。


そんな光景が重なって見える。あの時確かに俺は笑っていたはずだ。何故か?楽しかったからだ。


やがて俺の剣が師匠の命を奪う。その時の師匠は血まみれの顔で笑っている。


俺もあの時アスラの刃を受け入れるとき、笑った……


師匠。あなたは……もしかして……?


目が覚めると見慣れない部屋にいた。まだあたりは薄暗く早朝といったところだろう。部屋の中にはライズとニコそれにアスラがいる。


この部屋にはベッドが一つしかないようで、ニコは椅子を壁に寄せ腕を組んで眠っている。

 

そしてもう一人、アスラはライズのベッドに突っ伏して寝ている。鎧を脱ぎ無防備に眠る姿はとても可愛らしかった。

立ち合いの時にも思ったが、黙っていれば相当に美人なことがうかがえる。そんな彼女に結果として彼は一度殺人者になれと迫ってしまった。

あの時、この包帯に巻かれた両手が防がなければ、彼女はどうなっていただろうか。


自分と同じく一生残らない心の傷を負わせてしまったかもしれない。そう思うと途端に申し訳なさと自分勝手な思いと行動に、つい罪滅ぼしで寝ている彼女の髪を優しく撫でた。


「すまない。巻き込んでしまって。君を殺人者にしなくてよかった」


そんな言葉が聞こえたのか、アスラはゆっくりと目を覚ます。

 

「ライズ?ああ良かった!なかなか目をさまさないから心配だったぞ!」


そう言ってライズに抱きついてきた。おそらくまだ寝ぼけているのだろう。一度彼女を落ち着かせようと身体を離し、


「別にこのくらいの怪我で大袈裟だな。俺はただ…」

そう言って俺の視線はあの「赤黒い剣」に落ちる。

あの感触はなくならない。そう思い目線を戻すと

  

「ライズ!生きてる…!よかった…!」


目を真っ赤に腫らしたアスラが弱々しく抱きついてきた。まるでライズの存在を確かめるかのように。


「ああ、大丈夫だ。俺はここにいる。しっかり生きている」


驚きつつもライズは彼女の身体をそっと包み込むように抱きしめる。


「ライズ……私、あなたを……あなたを殺してしまったかと。よかったよおおおお」


やがて言葉ではなく涙をこぼし始めた彼女が落ち着くまで、ライズには彼女を慰める他なかった。


……さて部屋にはもう一人いたはずなんだけど。とニコは自分のことを客観的に感じていた。


具体的にはライズが動き出した時。もう既に起きていた。だがまだ眠いと思い動かなかった。それが良くなかった。


寝ぼけ眼で様子を伺っていると、起き上がったライズが慈愛のような笑みを浮かべ、アスラの髪を優しく撫でる。


(兄貴!?そんな顔見たことないぞ!)


アスラが目を覚ますと、縋るようにライズに抱きつき

(ええ!?)


声にならない声で何かを言うと大泣きをしだした。

するとライズもそれを受け入れるかのように優しく背中を擦っている。

(……僕は壁。動いちゃだめだ)


完全に世界に取り残された存在として、ニコはこの場をどう乗り切るのか。いっそもう一度寝てしまうか。と考え目を閉じることにした。

このまま存在ごと部屋から抜け出したい。そんな思いで。


ニコはしばらくの辛抱の後、重なり合うように眠った二人を置いて部屋から出ていったのは言うまでもないだろう。

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