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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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不機嫌なアスラとビビるニコ

アスラは不機嫌だった。

というのも、全てはここで安らかに眠っている男のせいだった。


……まるで死んでいるかのような表現をしたが、生きてるよな?そう思い念のため彼の胸に耳を当てる。目を瞑り鼓動の音を聞く。

ドクン、ドクンと心地よくなっている。その音色に満足し顔を上げる。


とにかくだ!なんなのだこの男は。最初に立ち会ったときに違和感はあった。ただの盾使いではないと思っていたが、やはりその考えは間違いではなかった。


大盾を持つ動きも悪くはなかった。だが私が大技を放つ構えをとると、その大盾を放り投げ、終いには自分から刃を受け入れようとした。


あの時私は……私は、確実に殺ってしまった。そう思った。あの角度、距離、速さどれをとっても完璧に殺った。その瞬間彼は安らかに笑っていた。私を殺人者に仕立て上げ、何を笑う!


その不釣り合いさは今思い出してもトラウマものだ!

それにだ!盾を捨てあの赤黒い剣を手にした彼には悔しいがまったく刃が立たなかった。それはまだ許せる。自分が未熟だった。それだけだ。むしろ武の頂を目指すものとしてあれだけの物を見れた。それはいい。


だが!こいつは!あろうことか!決着をつける前に。私に刃を向けることなく背を向けた。苦難の表情を浮かべて。何だその顔は。私には刃を向ける価値すらないと言うのか!騎士の誇りを汚すとは!そんなに私は弱かったのか!

 

思わず拳を叩きつける。そこにあったテーブルがとんでもない音を立てて悲鳴を上げる。


その音に後ろで大人しかったニコが恐る恐る。


「あの…アスラさん?兄貴が寝てるんで…」


と言ってくるが、一瞥をくれてやると大人しくなった。


その後何かを言いながらそそくさと部屋を出ていくニコに、お前の兄貴は心配じゃないのか?と思う。


それにしてもライズはいつ起きるのだろうか?本当に大丈夫なのか。と時々身体を触ったりする。傷だらけの彼を見ているとやはり心配のほうが勝っていた。


一方部屋を出たニコは完全にビビっていた。なんなんだあの変な騎士は!


兄貴の胸に突然頭を乗せウンウン唸ったかと思うと、突然笑みを浮かべ、考え込んだと思うと、突然テーブルを殴る。倒れなかったテーブルの根性には感心してしまう。

それにあの目つき、死んだかと思った。あんな物を向けられてはさすがのニコをしても撤退するしかない。一応彼女に買い物に行くとはいったが、はたして聞こえていたのだろうか?そんなことより早くその場を離れたかった。


果物など兄貴が食べられそうなものを購入しながら往来の話を聞くと、やはり先ほどの兄貴たちの戦いの話が多かった。


「あの女騎士は誰なんだ?」「結構美人だったな」「白銀の騎士……どこかで聞いたような」

「ライズが剣を抜くのを初めてみた」「あんな動きができるなら何故使わない?」


など好き勝手言っていた。

だがその中には


「昔10年以上前にいた神童の天才剣士の名前って確かライズじゃなかったか?」「だがよ。あのライズとはさすがに別人だろ?本人だとしたら、なんで大盾なんか使ってんだ?」


という話があり、少し気がかりだった。さすがに村の秘密が漏れてしまうとは考えにくいが、少し考慮しておく必要があると胸に留める。


あの赤黒い剣を見た瞬間、あの時の兄貴が帰ってきたと思った。

でも最後の苦悶の表情で、まだ『完全には』戻ってないと悟った。

まだニコ本来の目的は果たせそうにない。そう思い、荷物を持ち直す。


ふと、空を見上げるとあたりはすでに暗く夜空には月が浮かんでいた。あの騎士を思わせる白銀に輝く部分が丁度残りの闇の部分と中和している。


そんな半月を見てアスラがライズの闇を中和する。そんな未来を幻想した。


後にニコはこの日見た半月を忘れられず、彼らにとってその名を表すようになるのはもう少し未来のことだった。

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