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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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VS白銀の騎士アスラ

訓練場に入ったあと、やると決めたらやるか。くらいに楽に準備をするライズ。準備も終わり大盾を構えてみるものの一向に始まらない。


何故だ?そう思い元凶の女騎士を見ると、訓練場を見てああでもないこうでもないと自分の世界に入っている。

何なんだコイツは!自分が早く戦いたいからという理由で連れてきたくせに。着いたら着いたでこの有様。

ライズは別にそこまで戦いたかったわけではないのに、なぜ早く立ち会わないのかとイライラする。

なんで俺が戦いたいみたいになってんだよ!そんな思いでライズは


「おい!さっさとやろうぜ!騎士様!」


そう声をかけた。暫くしてこちらの言葉に気付いたアスラがようやくこちらに向いて構える。そこには先ほどまでの変人の姿はなく、スッと立ち、白銀の髪を靡かせる。その姿はまさに白銀の騎士と呼ぶにふさわしい姿だった。


アスラのもつそのどこか幻想的な雰囲気は、この場において不自然に美しかった。


「我が名は白銀のアスラ!大盾のライズよ今日こそ決着をつけるぞ!いざ参る!」


その言葉を聞くとほぼ同時に彼女の剣が眼前にあった。上段か下段かそんな事を考える間もないほどの間しかなく、慌てて角度をつけて受け流す。

強い。そう思った。続けて後ろに感じた殺気に盾を滑り込ませて防ぐ。

確かにライズの本職は大盾ではあるが最良ではない。

故にこのままでは彼女には勝てない。そう判断し、最低限の動きだけを取る不動の構えを取る。

アスラもそれがわかったのか立ち位置を変え、さまざまな角度から剣を入れてくる。まさに神速の動きで翻弄してくる。

  

アスラの剣を受けていくうちにライズにはどこか懐かしさを覚える。そんな感覚がした。

彼女が剣を振るうたび、大盾で剣を受けるたび、その感覚は次第に確信へと変わっていく。


長い剣戟の中、身体中に少しずつ増えていく傷に不思議と嫌な気はしなかった。むしろ喜びのようなものを感じる。

 

あの剣筋は間違いない。「師匠の剣だ!」そう確信すると、次第にアスラの姿にかつての師匠が重なっていく。


俺は楽しかった。かつて日常の一部だった師匠との立ち合い。いつか必ず越えてみせる。がむしゃらに剣を振るっていたかつての思いが蘇る。


やがて彼女に重なる師匠は大技を放つ構えを取る。

その時ライズは思った。今なら師匠が俺を殺してくれる。

既にライズの瞳に白銀の騎士の姿はない。

放たれる大技を観て確信する。


これで死ねる。


そう思い大盾を放り投げる。かつて自分がそうしたように、無防備に全力で受けに行く。


遠くで大盾の落ちる音がなる。その音を聞いた時、既にアスラは眼前にいた。驚愕と困惑。さらに悲しみのこもった目でライズを見ている。


(すまない。アスラ。お前にこんな役目を押しつけてしまい。でも。ありがとう)


そう思い笑顔で彼女の刃を迎え入れる。


頭の片隅には、死ぬ前にもう一度師匠と剣を交えたかったな。

そんな思いが残っていた。



………………



心では刃を受け入れるつもりでいた。だがどれほど待っても心臓を貫かれる感覚がない。


なぜ?


そう思い彼が目線を下げると、己の両手がアスラの剣を受け止めていることがわかる。両手はなぜ繋がっているのか。そんなことを思わせるほどあらゆる箇所を血で濡らしていた。


確実に間に合わない。そんなタイミングだった。ライズには戦闘の才がある。だからこその疑問である。なぜ間に合ったのか。


あの角度、速さ。他にも要素はあるが確実に死への扉は開いていた。それなのに、ライズの身体は自らに刃を受けることを望まなかった。

かつて神童と呼ばれたライズの才は並の才ではなく。まさに天才と呼ぶにふさわしい。見るものにそれを感じさせる。まさに一瞬の出来事だった。


まるで抱き合うように身体が重なっているアスラの両目は瞑られており、涙を流しているのがわかる。

アスラが己の剣を抜こうとしているのがわかる。

だがそれは《《嫌だった》》。

ボロボロになりながらも決して離さなかった。


まだ彼女の剣と交じりたい。そんな思いでライズは彼女を挑発する。


「延長線だ!お前と!もっと剣を交えたい!」

そう叫んだ瞬間


ライズの腰から、「不気味な赤黒い光」が迸った。


鞘から抜き身の剣が飛び出す甲高い音が不思議と響く。

戦況を見守る誰もが息を呑んだ。


ライズの瞳が、獣のように鋭く細められる。

その姿がぶれると同時に、神速のアスラすら捉えきれない速さで剣が閃いた。


凡人ではみることのできない世界で唯一その速さについてこられるニコだけがその光景に心が躍る。

あれこそ!まさに兄貴の本当の剣だ。


勝負は一瞬だった。倒れ伏すアスラへライズが剣を正す。


しかし、次の瞬間

ライズの表情が苦悶に歪む。


(……!師匠の……鼓動が……)


剣を握った手に、あの日の感触が蘇る。

肉を断つ感触。止まる鼓動。

そして、勝利の快感。


「ぐっ…!」


身体が、剣が。アスラを突き刺そうとする。ライズは歯を食いしばり、自らの剣をアスラの喉元に突きつけるのを必死で、どうにか止めた。

勝負か決まる寸前で震える手が剣を鞘へ戻した。

  

「さすがだな白銀の騎士アスラ。久々に楽しかった……」


よろめきながら背を向け、数歩進んで崩れ落ちるライズ。


その光景を見たニコは震えた。

恐怖と歓喜が入り混じった目で。

かつての神童と呼ばれ、己が待ち焦がれた姿が確かにそこにあった。

だがそれと同時にライズの中にある闇の深さもまた感じるのだった。

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