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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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時は金成(かねなり)

話は弾むが、アスラはそんなことよりも早く行動に移したかった。


「よし、それじゃあ話も済んだことだし、早速行くとするか」


そう言って逸る気持ちを抑えられず彼女はライズ達に言った。


「終わった?まだ始まってすらいねーけど」


とライズから何か言っているが無視だ。アスラは早く行きたかった。どこへ?そんなの当然!


ふと、そう言えばこの辺の地理に詳しくないことを思い出し、賢そうな顔をする少年へ声をかける。


「時に少年。ええっと名は確か…」

「ニコです!さっき言いましたよね?アスラさん!」


そう!思い出したぞ。


「ニコ。君はきっと頭脳担当だろう。そこで萎びている大盾使いより賢そうだ」

「誰のせいだよ誰の」


アスラは今真剣に悩んでいる。周囲の雑音など気にならなかった。


「このあたりで広い草原かまあ草原でなくても見渡せるくらい広い場所はないか?

さすがに見渡せるからって海とか言うんじゃないぞ!」


と忠告も忘れない。


「ええっと…アスラさん?なんでそんな場所が必要なんですか」


何故か。仕方がない教えてやろう。


「そんなの私とそこの大盾のライズが立ち会うからだ。決まってるだろ?」


と何を今更と答える。


「は?聞いてねーぞ!」


と何やらライズが喚いている。本当に何を聞いていたんだか。


「いいか?私は貴公に会いに来たと言った。剣を持つ者同士。相見えたら闘う。世の常だろ?」

「いや、俺大盾使いだから…」

「つべこべ言うな!怖気づいたのか大盾使い!何者からも守る大盾のライズが聞いて呆れるな!」


と煽ってやる。


「いや、まあ嫌とは言ってねーけどよ」

「それなら最初から闘うと言え!それでも戦士か!」


まったく情けないったらありゃしない。

アスラのあまりの迫力にタジタジの様子のライズを見て噂に聞く大盾のライズはもっと誇り高い人物だったはずだが、所詮噂は噂かと納得する。

 

「それでニコ?どこか見当がついたか?」


と問う。その時ライズが


「いや、ギルドの訓練場で良くないか?」


と珍しくまともなことを言う。なるほどその手があったな!


「名案だなライズ!それにしよう!」


そう言って早々に席を立ち二人を促す。


早く戦いたいな。そう思うとアスナの歩むスピードが速くなる。まるで当然かのようにギルドとは反対方向へと。


「おい待て、アスラ!どこ行くんだよ。ギルドはこっちだぞ!」


とライズの声がする。アスラと呼び捨てで呼ばれるのはいつぶりだろうか。上官から呼び捨てにされるのとは違い嫌な気がしなかった。

そう思うとライズの言葉にも苛立たない。


「そっちのほうが速いなら先に言え。危うく遠回りをするところだっただろ。」


と文句を言うにとどめる。


「いや、正反対に行って遠回りもなにもなくね?」


というライズの言葉はご機嫌なアスラの耳には届かなかった。


そんなやりとりをする兄貴がニコにはかつてのライズ兄ちゃんに戻ったような気がして少し嬉しかった。


ギルドへ向かう道すがら、闘争心が抑えきれず早くつかないかなとワクワクしていたがアスラだったが、おかしい。一向に彼らが歩みに並び立ってこない。


確かに白銀のアスラという名高い騎士の隣に立つのが畏れ多いというのは理解できる。

それにしても遅い!何をしている!そう思い振り返ると、全く覇気のない顔でのっそり歩くライズとその後ろをニヤついた顔でついてくるニコが見える。


「遅いぞ二人とも!時間は有限なんだ。もっと効率的に使わなくてはもったいないぞ!」


そう言って彼らに言い聞かす。時は金成(かねなり)。とこういう時に上官が言っていた気がするが、何を言ってるんだか。

時が金になることなんか生まれてから一度もなかったぞ!何なんだあの言葉は!

皆してウンウン言っていたが何故かアスラのもとにだけは金が落ちてきたことはない。

何故だ?毎日ちゃんとご飯も食べているし、毎日お風呂…いやここで嘘は良くない。任務などで入れないこともあるから出来るだけお風呂にも入っている。うんそうだ。ちゃんと寝てもいる。こんなにいい子にしてるのに!どうして時は金成してくれないの?


ためしに他の人は何をしているのか聞いてみても笑みを浮かべるばかり。あとでライズに聞いてやるか、あやつのように覇気のない者には金成しないだろうが、私は優しいからな。ははは。


ふと私の思案を邪魔する声に耳を傾ける。


「おい、アスラ!いつまでそこに立ってんだよ!時間を有効活用だろ!時は金成だ!」


というライズの声が聞こえ、何!ライズ。貴公もその言葉を知っていたのか。これはやっぱり聞いておくべきだろうなと思いその背中を追った。


ライズの背中に追いつくと彼の腕を取り


「なあ、一つ教えてくれ」


と深刻なトーンで話し出す。


「な、なんだよ!」


とめんどくさそうに答えるライズに。


「先ほどお前も言っていたよな。時は金成って」

「それで?」

「あの言葉は本当なのか!私がいくら祈ったって生まれてからただの一度も。お金が振ってきたことなどなかったそ?

貴公はどのように時は金成してるんだ?参考までに教えてくれ!」


そう言ってギューっと彼の腕を掴む。

少し呆気にとられているようだ。当然だろこの白銀の騎士アスラ様が恥を忍んで聞いているのだ。驚くなという方が無理がある。


「あのなーアスラ言いにくいんだが金は落ちてこないんだ」


そう言ってくる彼の表情はなぜか優しかった。そんな彼の表情を見て少し心臓が跳ねた気がした。


「どうしてそんな事を言う?私にその秘訣を教えるのが嫌なのか?」


そう言って彼の身体を揺する。


「お前本気か?え?そんなことある?」


彼が急に動揺しだした。何があった?敵襲か?そう思って辺りを警戒しているとふいにライズからデコピンがとんでくる。


「きゃっ!」


外敵を警戒するあまり近場の警戒が疎かで声が出てしまった。


「な、何をする無礼者!不意打ちとは卑怯だぞ!」

 

と抗議の声を上げる。


「ばーかお前、ことわざも知らねーのかよ。白銀のアスラが聞いて呆れるな」


先ほどアスラが口にした言葉の意趣返しのようなセリフが返ってくる。


「き、貴様という奴は許しておけん!叩き切ってくれる!」


我が誇りを汚すとはいい度胸だ。と剣を抜こうとすると。


「ほら、着いたぞ」


とライズが目の前の建物を顎でしゃくる。どうやらついたようだ。

ふん、仕方ない。ここは一時休戦としておいてやろう。だが次はないぞとアスラは目線で訴えることに留めた。

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